ナタを持つ男

　家を出て歩いていたら、悲鳴が上がった

　何事かと思って声の出た方を見たら、今まさに1人の女性が、男に殺されているところだった

　男はナタを持ち、それで女性を叩くように何度も切りつけている

　その他にも被害者らしき人たちが数人、血を流して倒れていた

　（えっ…）

　あまりのことに我が目を疑った

　（まさか、いや、これは現実だ！）

　ナタを持った男は私の方を振り向こうとした

　やばい、私も殺されちゃう！

　「きゃー！！」

　私は大声を上げて逃げた

　早く逃げなきゃ！

　一生懸命に走る

　後ろから男の息遣いが聞こえてくる

　あの男が追いかけているのだ！

　ハア、ハア、運動不足の体は重かった

　（でも逃げなきゃ、捕まったらきっと殺される、私は来月、結婚が決まっている、幸せを目前にしてこんなところで死ぬわけには行かない）

　私は死に物狂いで走った

　だが、どこまでも追いかけて来る

　誰も助けてはくれない

　否、人がどこにもいない！

　見渡す限り誰の姿もない

　可笑しいなと思っても、殺されたくないから足は止まらなかった

　もう１つ可笑しいのはこの男、いつまでも足の遅い女の私に追いつかないのだ

　疑問を持ちながらも私は逃げた

　逃げて逃げて逃げまくった

　どのくらい走っただろうか、とうとう私は限界がきて崩れ落ちた

　そんな私に男の影が覆い被さって来る

　（怖い…）

　だが、襲って来ない