恋する乙女

まだ私が大学生の頃、同じゼミに仲良しな女子、結奈と律花がいた。
結奈はいつも髪を巻いて可愛い雰囲気でTHE・女子って感じ、そして同じゼミの晴人の事が好きだった。
律花はスポーツ女子で休日は一人でも登山に行ったりするタイプのアクティブな女の子だった。
私はというと、派手でもなく地味過ぎるほどでもなく、おしゃれが大好きだが大体いつも金欠気味の為、プチプラで可愛い服を求め、休日は古着屋や安くて可愛いショップなどを巡ることに時間を費やしていた。

三人ともそれぞれバイトをしていたが、たまにバイトの休みが重なると講義の後にお茶をしてカラオケに行く流れが定番だった。
ちなみに同学科で大体の講義もかぶっていた。

お茶をすれば決まって結奈は恋バナをする。
今日は晴人と会話したとか、ランチ誘いたいけど恥ずかしいとか、なかなか進展せずモジモジした様子の話を頬を赤らめながら長々話し続ける。
律花はサッパリした性格のため、「じれったいわ！イケメンくん(晴人の事)誰かに取られちゃうよ？！さっさと誘え！」と一喝するけど、結奈は「うぅー頑張るっ！」と言いつつもやっぱり恥ずかしがってなかなか誘えず、進展はなかった。

当の晴人はいわゆる爽やか系イケメン。嫌味のない性格でみんなに好かれていたように思う。

そのうち晴人は同じゼミの美希と付き合い始めた。美希は見た目は綺麗で成績も良く、笑顔が可愛い女の子だった。ただ、競争心が激しく、一度ライバルだと認識すると容赦がないというか、相手が傷つくような事を周りに気づかれないよう本人にだけサラッと言ってしまうような性格の子だった。要領がよく、嫌いな人以外には人当たりは抜群に良かったので、大抵の周りの人達、晴人ももちろんそういった美希の性格に気付いていないようだった。

美希は結奈を敵対視していた。どうやって付き合ったのかは詳しく知らないが、結果的には美希が晴人と付き合った訳だから敵対視する必要なんてないはずなのに。もしかしたら結奈が可愛かったから脅威に感じていたのかもしれない。
結奈が通ると周りに気づかれないよう舌打ちしたり、結奈のカバンを机から落としたり地味な嫌がらせが続き、結奈は憔悴しているように見えた。律花や私が心配し「美希にやめるよう私達から言うよ？！」と何度言っても「二人とも…心配してくれてありがとう。でも大事にしたくないし、晴人の耳にも入れたくないし…なんか美希が良いように言って私が悪者にされそうで。そんな風に晴人に思われたら辛いし…大した事ないから大丈夫だよ。」といつも拒んだ。

そんなある日、晴人が大学を休んだ。何日も何日も。どうやら連絡がつかないらしい。
美希が一人暮らしの晴人の家に行っても居る気配はないらしく、みんなで連絡してみても仲良いメンバーの誰にも返事が来ない。
誰が通報したのか、警察沙汰になるまで時間はかからなかった。
結果的には晴人は失踪扱いになった。
美希はかなり泣いていたように記憶してる。
結奈はショックを受けたのか大学を休みがちになった。

あれから何年も経つが晴人は結局見つからなかった。

そして先月、久しぶりに律花、結奈と再会しお酒を酌み交わした。
大学卒業後、３人ともみんな企業入社し、早三年になる。
律花は同じ会社に彼氏ができて同棲中、私は彼氏もなく相変わらずの実家暮らし、結奈は晴人に恋した以降はとくに気になる人はいないようで、一人暮らしのマンションで愛猫と暮らしているらしい。

３人で集まるのは約１年ぶりだろうか。みんなで会社の愚痴やらドラマの話やらで大いに盛り上がった。そうしてなんとなくの流れで思い出話になり、晴人の話が出た。
「晴人、どうしたのかな？もしや借金絡みで地方に逃げたとか？！」なんて勝手な推測をして盛り上がっていた、その時。
結奈が口を開いた。
「あのさ、ごめん。黙ってたんだけどじつは…。じつはね…。晴人、私と一緒になったんだ！」

律花と私はキョトン。私が「えっ？えっ？晴人が見つかったって事？それで今、二人が付き合ってるっていうこと…？」と聞くと、結奈は答える代わりに照れ臭そうに財布から何かを取り出した。

乾いた血がついた歯、そしてヘアゴムで束ねた少量の髪の毛だった。

意味がわからなかった。
律花と私は戦慄した。
「なにこれ…」