ひとりあそび【ジロウくん】
投稿者:ねこじろう (147)
そして靴も履かずに車のあるところまで全力疾走した。
ようやく白い軽自動車が見えると、立ち止まり莉菜を下ろして息を整えた。
それから車まで歩いて二人車に乗り込みエンジンをかけた時だ。
「ママ、ボールが、、、」
助手席の莉菜が前を指差しながら呟くので、見ると驚いたことにボンネットの上にあのなくなったピンクのゴムボールが乗っている。
「え!どうして?」
私は急いで車から出るとボールを取り、莉菜に渡した。
「ああ、良かった。 たぶんジロウくんが持ってきてくれたんだ。 ジロウくん、ありがとう!」
莉菜はそう言うと嬉しそうにボールを抱きしめた。
車が動きだしたときも莉菜は、
「ほら、ママ、あそこにジロウくんが立ってるよ!」
と座席に胸を付けて後方に手を振っていたが、私は怖くてミラーを見ることが出来なかった、、、
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
市街地の賑やかな灯りが見えてきてやっと、私の心臓の鼓動はようやく正常に戻った。
莉菜は川辺で少し寝たせいか元気を取り戻し、次々今日の楽しかったことを話しかけてくる。
そしていよいよ帰り道最後の信号で車を停めたときだった。
莉菜がポツリとこう言った。
「ねぇ、ママ、今日のハンバーグ3人分あるのかな?」
その言葉に、再びぞくりと背筋が凍った。
「莉菜ちゃん、どうしてハンバーグ3人分いるの?」
震える小さな声で莉菜に尋ねた時だ。
─パーン!
いつの間にか信号は青に変わっており後方の車がクラクションを鳴らす。
慌ててアクセルを踏み込んだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
自宅マンションまで後数分なのだが、先ほどからまた心臓の激しい鼓動が止まらない。
ハンドルを握る手のひらが気持ちの悪い汗で濡れているのを感じる、、、
というのは、
さっきから私は気付いているのだ。
ルームミラーに時折映りこむ、後部座席に座るうつ向いた男の子の姿に、、、
子供の無邪気な心はやっぱりすごい…