ホテル警備員
投稿者:Vから西へ (3)
私が20代後半の頃、京都にある有名なホテルで警備員として働いていた時の話です。
その日は夜勤で、午前2時から、広大な館内を約2時間かけて巡回するシフトに就いていました。私は、配属されたての新人で研修後初めて、一人で巡回することになりました。
慣れない広大な館内を一人で、巡回することに、少し恐怖心がありました。お客様や従業員がいるスペースには電灯が灯っているのですが、営業を終了しているレストラン、ジム、プールなど、そこに関わるバックヤードは、基本的には、明かりは付いていません。
そのため巡回する際は、懐中電灯を携行しています。私は、研修で教わった巡回ルートを思い出しながら、ゆっくりと巡回していました。
巡回も後半に差し掛かった午前3時過ぎ、私はジムエリアにある、プールの巡回を始めました。プール横のバックヤードにある小部屋に入り従業員が電灯を消し忘れていないかの確認をした後、プールエリアへと入りました。
その時でした、腰に装備している無線機から、「ザーザーザー」と音がしたのです。私は、相勤者が無線を送ったと思い、「何かありましたか。どうぞ」と送り返しましたが、反応はありません。
なにかのノイズかと思い巡回を続けました。プールには人気はなく、天窓から差し込んだ月の明かりに照らされ、ゆらゆらと水面が動いていました。
私は、水面を懐中電灯で照らしました。すると懐中電灯の明かりの中を黒い塊が横切ったのです。
一瞬、驚きましたが不審者や動物が入り込んだかもしれないと思い、注意深く観察するためにプールの縁に手をかけ頭を近づけたその時、勢いよくプールの中から腕が飛び出してきて、私のこめかみを凄い力でつかみ、プールの中に引きずり込もうとしたのです。
私が、必死に腕を掴み抵抗をすると、腕は私を解放しました。私は尻餅を付き腕から目を離しました。再び水面を確認すると、腕はなく消えていました。
冷静を失った私は、落ちた制帽を拾うことなく、急いでその場を離れようと立ち上がりました。
その時、再び無線機から音がしました。今回は前回と違い誰かが声を発していました。
短い言葉で「死ねば良かったのに、、、」と女性のか細い声でした。私は、巡回を中止し急いで警備室へと逃げ帰りました。
プールの監視カメラ映像を確認しましたが、ただ私が、プールに近づき顔を水面に付けて、溺れてかけている映像だけで、腕は映っていませんでした。
私は、その日に退職しました。そのプールで、なにがあったかは不明ですが、時々こめかみを掴まれたように頭痛がしており、今も続いています、、、
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