ガラスの糸
投稿者:砂の唄 (11)
各々が好きなように結末を想像してくれればいい。不幸な出来事を乗り越えたハッピーエンドを想像するもよし、全員が苦しみぬいて果てる悲劇的な結末を想像してもいい。それこそ解釈などいくらでもある。幽霊なんかいなくても結末は変わらなかった、本当はカイメイが供養してくれていたから全ては杞憂だ、考察も好きにしてくれていい。こんなのが教職をやっているとは嘆かわしい、お前は親友などという言葉を二度と使うべきじゃない、全員精神科の病棟から出てくるな、どんな風に考えてもらっても構わないのだ。
これらの出来事には何も難しいことはない。本来交わるべきでなかった数本の糸が交差し、絡まり、結び目ができてしまった。それを周りがほどこうとしているうちに、糸がちぎれてしまった、それだけだ。周りの人間に見えているのは歪な長さの数本の糸くずだけ。誰もちぎれた糸の痛みも悲しみも苦しみも分かりはしない。私や佐野先生がそうであったように、感じ取り、理解することなどできるはずがないのだ。ただ一人痛みを理解できた校長がM先生と同じように炎に焼かれる最期を選んだことは果たして希望であるだろうか?それとも、それはただの逃避に過ぎなかったのか?どれだけ強い願いもひたむきな祈りも、美しいだけで結局のところ必然を変える力なんて持たず、私達ができることは結び目を早々に引きちぎってしまうことだけなのだろう。
それでも、ただ一つ願えるのならば、あの夜に私にも絡みついたかもしれない糸が、私の隣で眠っている妻のおなかの中の命に結びつかないことを願う。確証なんてものはない、自分でも理屈に合わない馬鹿馬鹿しい考えだと思う。だが、輪郭のないぼんやりとした予感がいつまでも私に付きまとう。そう、それは肉に食い込んだガラス片のように、もがけばもがくほど私の深いところへと入り込んでくる。
その予感は誰の声色で私に最悪の結末を告げるだろうか?やはり校長の声だろうか、それともスズの声だろうか。いや、結び目は全てちぎれてしまったのだ、今更誰の声が聞こえるものか。
ただ一つ残っている私の隣から伸びて絡まる糸、私の方へと伸びつつあるまだ透明な糸、やはり結び目はいずれ呆気なくちぎれてしまうのだろうか。私は最近、刃物を手に取ると柄を強く握りしめ、じっと考え込んでしまうことが度々ある。
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