裏切りの代償

そう、その女性は彼の浮気相手であり、ずっと前に私の友達が目撃したという女でした。

彼は私と付き合ってすぐくらいに浮気相手と出会い、同時進行して付き合っていたみたいです。

さらにそれだけではなく、他にも2人の浮気相手がおり、私とは別に関係を持っていたらしいです。

彼が亡くなって始めて、彼が私だけを愛してくれたわけじゃないことに気づいたのです。

いろんな意味で落ち込んで、しばらく仕事を休むほどにショックを受けました。

心配してくれた友達が一緒に飲みに連れて行ってくれたけど、ちっとも心が晴れませんでした。

しかも、せっかく心配してくれた友達と口論になったのです。

理由は友達に「あの事故も裏切りの代償みたいなもんだよね！」と言われたからでした。

友達は悪気なく、むしろ私を励まそうとして言ってくれたものだと思います。

だけど彼の死をそんな風に表現されて、ショックでした。

それで友達と喧嘩になり、友達は怒って出ていってしまいました。

結局一人で家で飲み明かし、今までで一番おいしくないお酒に思えました。

翌朝になって、私は変な違和感を感じたのです。

まずはにおいです。

私は煙草を一切吸わないので、部屋にそういった臭いはありません。

なのに、その日は吸ってもないのに部屋に煙草の臭いが充満していて、あまりに臭いので部屋の窓を開けて換気しました。

昨日喧嘩した友達も煙草を吸うような子ではなかったので、その子の残り香というわけではありません。

探したけど煙草のニオイの原因になりそうなものは何もなかったし、奇妙というほかなかったです。

まるでニコチン中毒の彼の部屋のニオイみたいで、なんとなくぞくっとしました。

私は億劫な気持ちになりながら、仕事に行く準備を始めました。

心がもやもやしていて二日酔いで頭も体も重かったけど、これ以上仕事を休むわけにはいきません。

職場は普通のところよりも少し緩く、社長の計らいで休ませてもらっていましたが、さすがにこれ以上休みを取るのも罪悪感を感じました。

だからこの日は出勤することにしていたのです。

そして家を出ようとしたら、急に部屋の一角から「ジリリリリリ」という破裂音のような爆音が鳴ったのです。

何ごとかと驚いて、私は部屋を確認しました。

そしたら見覚えのある目覚まし時計がありました。

それは付き合ってすぐのときに彼が誕生日プレゼントに買ってくれた目覚まし時計でした。

一度使ったけどあまりのうるささに両隣の住人からクレームが届き、使うのはやめて部屋に飾ってありました。

それが鳴らしてもないのに、突然勝手に鳴り出したのです。

死んだ恋人からもらった目覚まし時計だと気づいたら、まるで近くに彼がいるような気がして、少し怖くなりました。