おまもり
投稿者:リュウゼツラン (24)
「好きなんだ。カナコのこと」
小学校6年生の夏、僕は生まれて初めて告白をした。
相手はクラスメイトのカナコだった。
彼女はいつもジャージを着ていた。噂では父親と二人暮らしらしいので、多分娘の洋服には無頓着なんだろう。可愛いアクセサリーとかフリルの付いた洋服を着ている姿なんて見たことがなかったけど、カナコはどこか大人びた雰囲気を持っていて、その魅力に僕は惹かれたのだ。
「あはは、そうなんだ」
馬鹿にする感じでもなく、彼女はそう笑った。
「えっと、返事は……?」
正直、僕には勝算があった。クラスの男子の中で、カナコと話した時間はダントツで僕がトップだったし、僕が図書委員をやると言ったら彼女も追随して図書委員になったという事実が、僕に成功率の高さを確信させた。
「えーと、お友達じゃダメなの?」
「お友達……まぁ、別に、いいけど」
「じゃあお友達で」
快活な笑顔で握手を求めるカナコの手を僕は渋々握った。
こうして僕の告白は、予想外の玉砕という結果に終わったのだけれど、でもこれを機に、僕らはしょっちゅう一緒に遊ぶようになった。
クラスの奴らに茶化されるのはお互い嫌だったから、放課後に学校から少し離れた公園で待ち合わせして、キャッチボールやたわいもない話をして過ごし、小学生らしい遊びに興じた。
ある日、ブランコで揺られながらカナコはボーッとしていた。
「何かあった?」と訊く僕に「最近嫌なことばっかりでさ」と、彼女にしては珍しく愚痴をこぼした。
でもその『嫌なこと』が何なのか、具体的なことは言わず、「でも大丈夫」といつもの笑顔を見せはぐらかした。
何となくこれは追求しないほうがいいような気がして、僕もそれ以上その話題を続けることはなく、その日は早めに帰宅することにした。
翌日、僕はカナコにお守りを渡した。
「ええー、これもらっちゃっていいの?」
「うん」
「え、買ってきてくれたの……?」
「あー……家にあったやつなんだ」
そして改めてお守りをまじまじと見た彼女は何かに気づいたらしく、突然笑い出す。
理由を問うと「だってこれ、安産祈願って書いてあるし」と見せられたお守りには確かに『安産祈願』という文字がデカデカと書かれていた。
「あはは、でもあれだよね、お守りはお守りだもんね。……ありがと」
「……うん」
僕の予想では、昨日の彼女の異変に気づいた僕が、スマートに彼女の不安を払拭させる為のプレゼントを用意したことをもっと喜んでもらえるはずだったんだけど……とんだ失態だ。母親の引き出しから勝手に持ち出したものだからな。多分アレは僕が生まれる時にでも貰ったものなのかも知れないな。
でも、決して格好良くはなかったけれど、カナコが喜んでくれたならそれでいいか。
彼女の笑顔が見れて僕も嬉しいし。
胸が痛い。
最後に予想を裏切られた…
非常に面白かったです
貴方は、彼女を守ったよ。
歳の割に渋い割り切りしてんな、少年。
いい漢になるぞ。