待ってるよ
投稿者:わばこん (1)
今から5年前、私が動物霊園で働いていた時の話です。
そこの動物霊園は墓地と納骨堂のどちらも兼ね備えた施設だったのですが、夜に納骨堂の点検と鍵を閉める事が私の仕事内容でした。
動物霊園に入る子たちというのは基本的に飼い主さんから愛されていた子たちばかりのため、悪い空気や怖いなどの感情はあまり感じていなかったのですが、ある日少し変わった飼い主さんが来たことから一変したのです。
基本的に予約をして、ご葬儀をしてご火葬納骨となりますが、その方は急に飼われていた猫のご遺体を連れて納骨堂にやってきました。驚いたものの、飼い主さんも動転してしまったのだろうと、一度霊安室にてお預かりしてからご火葬になりますなどと手続きや説明を進めていざお支払い…のタイミングで財布を忘れてしまったと言われました。
困りましたが、契約もすすめていたし、なにより亡骸を持って帰れというのは酷すぎると考え、後ほどのお支払いでお願いすることにしました。
そして翌日、紙に記載してあった電話番号に何度かけても繋がらず、電話の料金が払われていない様な応答でした。
これはまずい…と記載された住所まで車を走らせましたが、ポストからはチラシがはみ出しピンポンは壊れており、何度声をかけても誰も出て来ません。
それから1週間経っても、1ヶ月経っても変わらず、仕方なく猫ちゃんのご火葬とご葬儀をスタッフのみで行う事となりました。
悲しい気持ちとなぜ飼い主さんは居なくなってしまったのかという怒りの気持ちが混ざっていましたが、これからもしかしたら飼い主さんが来てくれるかもしれないというわずかな期待をこめて、猫のご遺骨は納骨堂に個別に安置しておくことに決まりました。
何か事情があるのかもしれない、もしかしたらご病気とかもあり得るかもしれないとスタッフで相談して、1週間に一回は電話や手紙を入れて…と待つことにしたのです。
そして連絡のないまま時は流れ1年…丁度猫ちゃんが連れてこられた月日くらいから、納骨堂で不思議な事が起こる様になりました。
一つ目は納骨堂のライトでした。
ライトの電球がすぐに切れてしまうのです。何度新品にかえても1週間と持たずにパチンと切れ、なんどもなんども交換するのですが全然持たなくなりました。
種類を変えても、痺れを切らしてライトの本体から変えてもダメでした。
電気会社の人に来てもらっても原因がわからず、みんなで頭を抱えました。
そしてそんな中二つ目の異変が起こる様になります。
納骨堂ではスマートホンをBluetoothでスピーカーに繋げてヒーリングミュージックを流していたのですが、音楽に雑音が入る様になりました。
音楽が途切れるならまだわかるのですが、あの『ザザザ…』というテレビの砂嵐の様な雑音が納骨堂内に響き渡るようになってしまい、我々スタッフは顔を見合わせました。
しかもこの現象は複数人のスタッフが入る時は起こらず、決まって1人で夜の見回りや鍵を閉める際に起こるのです。
さすがに怖くなってしまい、スピリチュアルな霊の存在を疑う様になりました。
そして最後の異変は生花の枯れるスピードです。
今まで生花は水切りすれば3日はもっていたものが、早い時には半日でしなしなになってしまうようになったのです。温度を変えても花を変えても、お花は異常なスピードで枯れてしまう様になりました。
これは会社自体の損失にも関わるとのことで、社内で緊急会議が開かれました。
しかしだれも『霊』の話題には絶対に触れず、結局原因の究明に至ることはできないまま、お花は造花にする事に決まりました。
そんな異常事態が続いていたある日のこと、一本の電話がなりました。
『はい、動物霊園です』
『…あの…』
なにやらもごもご言って全く聞き取れない女性の声。
『いかがなさいましたか?』少し強く言うとやっと『猫を昔そちらで…お金がなくて…』とボソボソ話しはじめました。
『ご連絡いただきありがとうございます!』まさかもう連絡が来ることはないだろうと思っていた矢先だったので、とにかく嬉しかった事を覚えています。
ご冥福をお祈りします。
悲しく切ないが最後はいい話でしたわ。