非常階段の女
投稿者:都ベリス (1)
わたしがまだ賃貸マンションで暮らしていた頃の話です。
婚約者と名古屋で暮らすために、見晴らしの良い広い間取りの部屋を借り、2人で暮らしていました。そこは7階建ての最上階で、築年数15年ほどのわりと美しい外観でした。
いつもエレベーターの出口から部屋までの通路で感じる風が爽やかで、とても気に入っていました。エレベーターの前には屋上へ通じる階段があり、登り切ると扉を開けて屋上に出られるはずなのですが、扉の前には鍵付きの頑丈な鉄格子が設置されていて入れず、屋上からの見晴らしを楽しむことはできませんでしたが、それでも眺めは最高でした。
ある日の夕方、いつものように仕事から帰り、最上階まで昇ったエレベーターの扉が開いて部屋に戻ろうとしたときです。
目の前の階段の向こう側に気配を感じました。見上げると、白いワンピースを着ている黒髪の女性が、鉄格子に掴まってこちらを凝視していました。髪も服も乱れ、大きく見開いた眼で。
ぎょっとしてしばらく立ち尽くしましたが、我に返って「…あの、大丈夫ですか?」「誰か人を呼びましょうか?」と声をかけました。返事もなくじっとこちらを凝視しているので、なにかの事件に巻き込まれたのかと思い「人を呼んできますね」と伝えたとき、ちょうどエレベーターから隣の奥さんが出てきました。
「あのすいません、彼女扉から出られないみたいなんです。大家さんに電話していただけませんか?」と鉄格子の女性を指して呼びかけると、奥さんはわたしから離れて「何言ってるんですか!?誰もいないじゃないですか!警察呼びますよ!!」と叫びました。
どうしても取り合ってくれないので、大家の連絡先を探すために一度自宅に入り、女性に直接話してもらおうと再び戻ると、誰もいなくなっていました。
次の日に鉄格子をよく観ると、マンションには不釣り合いに頑丈で新しく、一目で後から設置された物だとわかりました。もしかするとあれは、過去に事件に巻き込まれた方の自縛霊だったのかもしれません。
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