部屋を間違えた
投稿者:take (96)
知り合いのWさんに聞いた話です。
彼が通っていたのは地方大学で、そこの男子寮に入っていました。
同じ寮仲間もできて楽しいし、一人部屋だったので不満もなかったそうです。
ある夜、ふと目を覚ますと、部屋の中に見知らぬ中年男が立っていたのです。
部屋の明かりはついていなかったのですが、やけにその姿ははっきりと見えていました。
男はWさんを見て、不思議そうな顔で首を傾げていました。
Wさんは泥棒か不審者かと思い、声を上げようとしましたが、恐怖のためか声が出ません。
すると、その男は、
『山田太郎(仮名)の部屋ってここじゃなかったんか?』
と尋ねてきたそうです。
山田くんというのは同じ寮生で、右二つ隣の部屋です。
「ふ、ふたつ向こうの部屋です」
震えながら、Wさんが指差しながら言うと、
『そうか、すまんやったね』
中年男はそういうと、すーっと横滑りするように移動して、壁に消えていったそうです。
翌朝、食堂で顔を合わせた山田くんは、ぼんやりした様子で朝食を食べていました。
挨拶をし、「変なこと聞くけど」と、前置きをして、昨夜のことを話しました。
山田くんには、子供のころからずっと可愛がっていてくれた叔父がいるのですが、
数年前から重い病気を患っていて。入退院を繰り返していたのだそうです。
その叔父が、昨夜山田くんの夢の中に出てきたので、もしかしてと思っていると、
今日未明に亡くなったという知らせがあって、このあと実家に帰るのだといいます。
甥っ子に自分の死を知らせにきて、部屋を間違えたのでしょう。
「慌てもんの叔父やったけんな」
山田くんは、寂しそうに、それでもちょっと嬉しそうに笑ったのでした。
なんか怖いけど良い話ですね。