風呂場のシミ
投稿者:リュウゼツラン (24)
短編
2023/02/19
02:12
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母は少し驚いていたけれど、「気にしないで」と笑顔を作り、夕飯の支度に取り掛かった。
謝ったのは祖母が怒っていると感じたからで、自発的ではなかったかもしれないけれど、僕は心の中でちゃんと母に対する申し訳なさはあって、謝罪は本心からだった。
その日は怖くて風呂に入れず、濡れた衣服だけ着替えて、夕飯後にはすぐにベッドに入り横になったまま眠れぬ夜を過ごした。
結局滑り止めに受けていた高校へ入学することになったけど、高校生活はそれなりに楽しく、入学して数か月が経った頃には、結果的にこの学校で良かったんじゃないかとまで思えるようになった。
もうすぐあれから四年が経つ。
僕は高校卒業後すぐに社会人となり、未だ慣れない仕事に四苦八苦しているけれど、それなりに楽しく生活している。
初任給で旅行に連れて行った時の母は終始「楽しいね」と言っていた。
僕の人生もとても楽しい。
風呂場のシミは、今日も優しく微笑んでいる。
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