日本刀
投稿者:リュウゼツラン (24)
おじいちゃんの家には蔵というか、大きな倉庫があった。
電気屋さんを営んでいたので、その倉庫にはたくさんの工具や太い配線みたいなのが所狭しと入っていて、中はいつも埃っぽかった。
窓がないので、昼間でも電気を消すと真っ暗だったそこに、いたずらをした子供はよく閉じ込められる。
外から鍵をかけられてしまうと中からは開けられないので、みんな泣きながら反省を口にしてそこから出してもらっていた。
私も何度か入れられたことがあるけれど、毎回もう二度とここには入りたくないと思った。
理由は、もちろん暗いこともあるけれど、一番は日本刀のせいだ。
戦時中、仲良くなった友人に、祖父がもらった本物の真剣だったらしく、何度か自慢げに見せられた刃は、キラリと光り、時代劇やアニメの世界のフィクションみたいに、本当に人を切ってきたんだろうなと思わせる恐ろしさがあった。
ある日、おじいちゃんの家に泊まることになった私は、夕食時にジュースを飲みすぎたせいか、おねしょをしてしまった。
夜中にビショビショになったズボンとパンツを持って、おばあちゃんに報告に行くと、隣で寝ていたおじいちゃんが目を覚まし、大声で怒鳴った後に私を例の倉庫に連れて行った。
時刻は深夜。昼間でさえ恐ろしい漆黒の闇が広がる倉庫に行ける程のメンタルを持ち合わせていない私は必死に抵抗した。
物を投げたり柱にしがみついたりしたけれど、大人の男性には勝てず、結局倉庫に放り込まれてしまった。
私は大声を出す。
「助けて!」「人殺し!」
きっと近所の人が気づいて助けに来てくれるだろう。そしておじいちゃんは怒られればいい。子供にこんな意地悪をして。
そんな期待をした私だったけれど、自身が発した「人殺し」というワードにゾクッとしてしまう。
そして、思い出す。
恐ろしい刀の存在を。
目を凝らしても先は全く見えず、目の前でさえ何があるのか分からない暗闇であるはずなのに、なぜか刀の位置が私には分かった。
理由は簡単で、刀が光っていたから。光の届かない部屋で刀が光るなんて、今考えればあり得ない話だけれど、そのときは自然と受け入れていて、鈍く光る刀身をただ見ていた。
少し遅れて背筋が凍る。
あれ、あんな所にあったっけ。
確か刀は倉庫の奥の壁際に置かれていたはずなのに、今は私のいる入り口から50cmくらいの所にいる。
ある、ではなく、いるが相応しいと感じた。
なぜなら、それは、それ自身が動いていたから。
鞘に入っていたはずなのに、刃をむき出しにして。
蛇のように、地面を擦るようにして私に近づいてきたから。
私は泣いた。
大声を出して、力の限りドアを叩いた。
「殺される!」「助けて!」
もちろん助けは来ない。
おねしょ如きで蔵に閉じこめるという行為が、常識を逸脱と言うか、刀に取り憑かれていたのはお爺様だったのでは?という懸念
小指を切り落とされて機能に問題が無いというのは無理があるのでは?
刃を潰してない刀は、銃刀法違反ではないのかな。と1人想う午後であった。