通りすがりの誰か
投稿者:take (96)
仕事で付き合いのあるE美さんから聞いた話です。
彼女は地方の大学へ進学し、ひとり暮らしをしていました。
住んでいたのは単身者用アパートの2階の部屋で、近くには同じような物件が多く、同じ大学の友人たちも住んでいて、よく行き来していたそうです。
ある日、朝から体調が悪かったので大学を休みました。
熱はないのですが、悪寒がして体がだるく、動くのが億劫でした。
夕方くらいになって、だいぶ楽になってきたので、このぶんだと明日は学校に行けるかな、と思い、ベランダに出て夕陽を眺めていました。
近所に住んでいる女友達が通りかかったので、声をかけると、友達もE美さんを見つけて、笑顔で手を振りました。
「もう大丈夫なの?」
「うん、もう平気。明日は学校へ行けると思う」
そんな会話を交わした後、
「ちょっと寄っていかない?」
と誘いましたが、
「え、今日はいいよおー、また明日ね」
と、いつもは遠慮するような仲ではないのに、妙に恐縮したようなそぶりで、手を振り、なぜか何度も頭を下げて行ってしまいました。
どうしたんだろう? と思いながら、その日は夕食を食べて早めに就寝しました。
次の日、学校で会った友達に、
「昨日何か用事でもあったの?」
と、訊くと、
「えー、だってさ、お邪魔じゃない」
と、友達はニヤニヤしながら言います。
「え、どういうこと?」
「いつの間にカレシができたの? 昨日は看病してもらってたの?」
友達は相変わらず笑いながらそう言いました。
「嘘、誰か居たの?」
と、E美さんは訳がわからず訊き返すと、
「隣にいたじゃない、背の高いかっこいい人。ニコニコして私に何度も頭を下げてたよ」
友達はちょっと怪訝そうに首を傾げました。
その頃、E美さんに彼氏はいませんでしたし、もちろん昨日は誰も部屋にいませんでした。
「まあ、そのあと何事もなかったんですけど、しばらく気持ち悪かったなあ……通りすがりだったんでしょうかね?」
E美さんはそう言うと、寒そうに二の腕をさすりました。
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