雨乞い君
投稿者:どっかの誰か (4)
もしかしてこれを食っていたんじゃないかと男子達もドン引きしていると、錯乱状態になった先生が容器を取り出そうと袋を手に持った。
「やめてください!“あまごい”です!
あまごいするのに必要なんです!!」
止まないざわめきの中でその子が一際大きく叫んだけど、先生の顔が袋の中身を見て、泣き出しそうな表情に変わったんだ。ヒッ、と短い悲鳴をあげて反射的に袋を手離すと、床に落ちて散乱した魚の醤油入れを囲むように野次馬の輪が出来て。
「絶対に触るな!触るなよ!!」
必死の形相でその子が叫びながら取り戻しに来たものの、勿論、誰も触ろうとなんてしていない。蛍光灯の下でよく見れば容器の外側にはいくつも赤い何かが付いていたし、やけにドロッとした中身は“きっと醤油なんかじゃない”と、みんな物言わずに察していたからだと思う。
「なぁ……、なんでそんなもん持ってんの」
「“雨乞い”だよ。神様にあげるんだ」
大切そうに醤油入れを掻き集めている姿にお調子者が恐る々る尋ねると、満面の笑顔で質問に答えていた。
けれど、微妙に噛み合っていない不自然な会話がなんだか余計に気持ち悪くて。そんな出来事を境に、その子のあだ名は“雨乞い君”になった。
例年の運動会は大きな台風で中止となり、開催予定日を変更しても前日までの天気予報を裏切って、連続の雨。結局、俺の小学校生活の中で晴れた運動会の記憶なんて一度も無かった。
偶然、担任の先生が大病を患い急逝したのも重なって、“雨乞い君”はますます人から避けられ、俺とも距離を置いたまま卒業し、遠方へと引っ越していった。
得体の知れない神様に気に入られた“雨乞い君”は、今も何処かで、自分の都合通りに雨を降らせているのだろうか。
雨乞い君の理解者になってあげればよかったのに。