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不思議体験

柚音さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

押し入れの人形たち
長編 2022/12/27 21:04 3,910view

正直なところ、さっさと寺に荷物を運んで終わらせたい気持ちでいっぱいでした。雨も降りそうだし荷物も気味が悪い。人形の頭ひとつ見つからないからと足止めを食らうのはうんざりでした。
「これってあとで見つかったら頭だけお祓いしてもらえるんですか?」
「いや、それは・・・」
この手の作業は、時間内に終わらないようなら追加で延長料をもらうか、もしくは一旦切り上げてしまうので別料金になるのだが、寺の方はどうなのだろう?
金を払えばすぐにお祓いしてくれるものなのかもわからないので素直にその旨を伝えました。
「そうですか・・・」
旦那さんはそれ以上口にせず、しかたないと割り切ってくれてほっとしました。

長居は無用と手早く梱包を終え、車に荷物を積み込んだ私は旦那さんにあいさつをし、寺へ向かいました。奥さんはあれ以来部屋にひきこもってしまったので顔は見ませんでした。あとでクレームがこないといいなとぼんやり考えながら運転していると急に電話が鳴りました。

それは、仕事用に持たされていた携帯で普段はほとんどかかってこないものです。こちらからお客さんのうちに伺うときにかける程度のものなので、不意をつかれてどきりとしました。
鳴りやまない携帯を横目に路肩に車を停車し、携帯のディスプレイを見ると先ほどのお客さんの番号でした。
急いで電話に出ると、人形の頭が見つかったので戻ってきてほしいとのことでした。やれやれと思いながらも、これですっきり依頼を完了できると思い、引き返すことにしました。お客さんの家につく頃にはとうとう雨が降り始めましたが、早く終わらせたかった私は傘もささずに玄関先に飛び込みました。

チャイムを鳴らそうとすると、先にドアの方が開きました。
「あっお待たせ・・・しました」
てっきり旦那さんが出てくると思っていましたが、出てきたのは奥さんの方でした。なにより驚いたのが、青ざめた顔にはりついた笑顔です。今にも倒れそうな顔色なのにその顔には笑顔が浮かんでいます。

「あの・・・大丈夫ですか?」
奥さんは私の言葉に返事をせず、ただ手を差し出しました。その手には人形の頭がのっていました。
「あっああ・・・みつかったんでしたね」
受け取った人形の頭をみた私はぎょっとしました。恐怖に歪んでいたはずの顔がいびつな笑顔にかわっていたのです。しかし、表情以外はたしかにあの人形の頭でした。

「これ・・・なんか表情が・・・」
奥さんは何も言わずに踵を返し、ドアをバタンと閉めました。そのまま戻ってきませんでした。
急に怖くなった私はすぐに車に戻り、人形の頭を荷物の中に入れるや否や車を走らせ、寺へ駆け込みました。住職さんには話が通っているのですんなり搬入することができましたし、搬入が終わるころにはすっかり雨もあがっていました。

あのときの体験は今でもはっきりと覚えていますが、恐怖心はすぐに消えました。不思議な体験をしたなあという思いだけが残っています。たしかに人形の表情は変わっていたし奥さんの様子も異常でした。ですが、今考えるとどこか救われた表情だったようにも思えます。これが私の体験した不思議なお話です。

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