香名館
投稿者:津々 (42)
今から20年ほど前、僕が実際に体験した話です。
当時、心霊スポット巡りにハマっていた僕は、北海道心霊マップなるものをコンビニで買って近間を周って遊んでいました。大抵の場所は「足音がしたよね」とか「誰かの話声みたいなの聞こえなかった?」などはっきりとした霊現象に合う事がなく漠然と「怖かったよね」というのを楽しんでいたんだと思います。
その日の夜も、なんとなく選んだ香名館という心霊スポットに僕とA、B子、C美の4人で行く事にしました。心霊マップには「浴槽で客が死亡した事がきっかけで旅館が閉館。しかしドライブインとして再開するもオーナーが自殺。それ以降、廃墟になるが浮浪者が住みつき2階のテラスで浮浪者が不審死」と不幸な出来事などが書かれていたと思います。
心霊マップの地図でなんとか目的地である香名館に辿り着くことが出来ましたが、香名館は今まで行った心霊スポットとは雰囲気から違いました。まるで、黒い霧がかかっている様な感じでモヤっとしていました。香名館の入り口付近に来ると黒いモヤな様な物はより一層濃くなった気がしましたが、僕はみんなに話す事が出来ませんでした。理由は、若い事もあり友達に「ビビってる」と思われたくなかったからです。今ならすぐに「ここ、いつもの所より様子がおかしいよ」と言えると思います。
僕がそんな事を思っている事に誰も気付かず、Aは指差しながら「あの玄関の上のテラスでホームレスが死んでたんだろ」と話していました。そして、全員で香名館の中に入り一通り見て回りました。
香名館の中は、かなりものが残っていて、例えば飲食店によくある大型の冷蔵庫や食器類、デスクなどが乱雑にあり、二階にはベッドや畳に敷かれた布団などや金庫、ポットなどたくさんの備品がありました。それらを見ながら友達は「備品も片付けられないぐらい何かから逃げたのかな?」、「敷いている布団とかなんかリアルに使用感がヤバイ」とか話しながら一度建物から出る事にしました。
香名館から出ると、入り口付近に同じ4人組の肝試しグループがいました。僕たちと同じぐらいの年で中の様子などを話して、そのグループ(以下Bグループ)は建物の中に入って行きました。Bグループの悲鳴を聞きながら僕とAはタバコを吸っていました。すると、B子、C美が僕たちの方に近付いてきて「Bグループ叫び過ぎじゃない」とちょっとバカにした感じで話しかけてきましたが、僕はB子たちに「きっと俺たちもあんな感じなんだよ」と話しBグループが出てくるのを待っていました。
待っていた理由は、いつもやる遊びをするためでした。遊びとは2組に別れて建物内に鈴のついたキーホルダーを隠す遊びです。キーホルダーを隠す組と探す組を交互に行い宝探しと心霊体験を両方味わえるような遊びです。しかし、いくら待ってもBグループは出てきませんでした。
香名館内はそれなりに広いのですが、どれだけ時間をかけても1時間もあれば全部周れる程度の広さなのに、Bグループが入ってから既に1時間30分は経っていました。僕たちが「Bグループになんかあったんじゃない?」と話しているとB子が「そういえば悲鳴や叫び声も聞こえなくなったよね」といいだしました。
確かにB子の言う通り、入って間もなく聞こえていた悲鳴や叫び声どころか、懐中電灯の光すら見えなくなっていました。
僕たちは心配になり、Bグループを探しに香名館に入る事にしました。僕たちはBグループの名前など全く知らなかったので「おーい!だいじょうぶかー!」などと呼びかけながら建物内を歩いていました。しかし、一階の厨房やお風呂場、客室、大広間には人は居ませんでした。なので、そのまま二階に上がり一部屋ずつ見て回る事にしました。僕はAに「香名館に入ってから話し声や足音も聞こえない。なんかヤバくないか?」と話しましたが、格闘技を習っていたAは「相手が人間だったら負けないよ」を笑って返しました。だんだん残りの客室が減って行く中、ようやくBグループを見つけました。Bグループは全員客室で気絶していました。
僕たちは揺すったり顔を叩いたりして全員を起こし、とりあえず外に出る事にしました。外に出て少しすると、Bグループが気絶する前の事を話し始めました。僕とAはタバコを吸いながらBグループの話を聞いていました。Bグループは「二階のテラスあたりで全員強烈な耳鳴りに襲われた」というのです。そして、「耳鳴りから逃げようと奥の客室に入った所、耳鳴りより激しい頭痛に襲われ意識を失った」という話でした。
そんな不思議な話をしていると、B子が「携帯電話がない」と騒ぎ始めました。なので、僕たちとBグループでB子の携帯を探したのですが見つかりませんでした。ダメもとでB子の携帯電話を鳴らしてみました。すると、Bグループが倒れていた部屋の中で光が点滅していました。僕たちは、その光景を見てなんとなく嫌な予感がしました。まるで誰かに呼ばれているような感じでした。とはいうものの携帯電話を取りに行かなくてはいけません。Bグループの様に謎の耳鳴りや頭痛に襲われるかもしれない恐怖で、安全策として僕たち全員で行くか、少数でスピード重視にするか悩んでいました。
すると、Aが「俺一人で行ってくるわ」といいだしました。みんなはAに「危ないから一人はやめな」と止めているのに僕はこの時自分が卑怯者だと思いました。なぜなら、Aが一人で行くといった時にAを止めるでもなくAと一緒に行くというわけでもなく全員に聞こえる様に「一人はヤバくない?」と言うだけだったからです。内心、「格闘技をやっているAなら大丈夫だろう」と自分に言い聞かせ自分が行かなくてもいい理由を探していました。香名館にもう一度入るのが本当にヤバいと思っていたならAに付いて行くべきでした。
ですが、Aと一緒に行ったのはB子でした。B子は「自分の携帯だし、落としたのも自分だし」と二人でもう一度、駆け足で香名館に入って行きました。真っ暗な建物内を二つの懐中電灯の光が上下に揺れながら少し早い速度で移動していくのが所々われているガラス越しに分かります。僕はこの光を見ながら「自分は男として情けないな」とつくづく自分に嫌気がさしていました。そんな事を思っていると突然、「だれかー!きてくれー」とAの叫び声が聞こえました。Aがこんな叫び声を出すのは尋常じゃないと思いました。そして、先程まで自分の中での葛藤が相まって僕は誰よりも先に香名館の中に駆け出していました。
がむしゃらに建物内を走ったせいかあっという間にA達の居る客室に付きました。すると中は、理解しがたい状況でした。B子は自分の左足を叩きながら「はなして!はなしてよー!」と叫んでいました。僕がAに「何があったの?」と聞くとAは「携帯電話を見つけて携帯電話をポケットにしまったら突然こんな状況になったんだよ。きっとB子には何か見えてるんじゃないか?」といいました。僕とAがB子に「大丈夫か?歩けるか?」と話しかけてもB子は「足をはなして!」と叫ぶだけでどうしようもありませんでした。
なので、Aと二人でB子を担いで逃げるように香名館から逃げ出しました。B子は担がれている間もずっと「ごめんなさい。足をはなして!」と泣き叫んでいました。B子を抱えて出来た僕たちの形相が凄かったのか、C美とBグループの全員は駐車場まで何も言わずに走り出しました。車に乗ってもB子の状態は変わらず困り果てているとBグループの男性に「とりあえずこのお守り握ってここから離れな」といわれ、他にいい案が浮かばなかったので言うとおりにしました。
すると、数km走った所でB子は疲れ果てたのか気を失ったのか「スッ」と眠りにつきました。僕たちはそのまま帰路に就くことにしましたが、途中で「Bグループは大丈夫だったかな?」という話題になりました。しかし、「大丈夫だろう」ってことで話は終わりました。
地元に着くころにB子も意識が戻り、香名館での話を聞いたのですが、「何も覚えてない」との事でした。
しかし、B子の足には青あざが出来ており、そのサイズは子供の手のサイズでした。そして一番怖かったのはBグループからもらったお守りが所々黒く変色していたのを見つけた時でした。お守りが変色した理由もB子の足の痣の理由も説明できませんが、とても怖い体験でした。
そして最後に、Bグループの彼らはあの日の帰り道に交通事故を起こし全員亡くなりました。B子にお守りを渡したのが原因なのかなとAと話したのを今でも覚えています。本当に霊障がある心霊スポットがある事を、この日初めて知りました。
遊び半分で行ってはいけないですね。