交差点のおっさん
投稿者:やうくい (37)
私が小学2年生の頃、田舎なこともあって学校と家が遠く離れている私は、通学路のほとんどを一人で登校していた。
一人で歩く道ほどつまらないものはない。無意識にあちこちを見ながら歩き、私なりに楽しいものを見つけていた。
コイがたまにいる用水路を見てコイの有無を確認し、半裸でラジオ体操しているお爺さんに挨拶し、生えているねこじゃらしを引き抜いて振り回すのが私の日課だった。
ある晴れの日、通学路のT字路交差点に設置してあるミラーをなんとなく見た私は、私の立っている方とは逆の道で、おっさんが手を振っているのを見つけた。不思議なことに手の甲をこちらに向けており、満面の笑みを浮かべている。私が手を振り返すと、さらに激しく手を振り、なにか言っているようだ。
残念ながら何も聞こえず、私はミラーから目を離し、おっさんがいた道を見た。しかし、誰もいない。またミラーを見ても誰もいなくなっていた。よく分からないが、おっさんはいい人そうだった。密かに「交差点のおっさん」と名付け、明日もまた確認することにした。
次の日も晴れだった。私は交差点のおっさんに会うため、T字路に立ち寄り、ミラーを見てみた。おっさんはいた。
相変わらず手の甲をこちらに向け、満面の笑みで手を振っている。振り返すと更に激しく手を振り、何かを言っている。ミラーから目を離すとおっさんは消える。その日から、おっさんに手を振るのも私の日課になった。
とある曇りの日、いつものようにおっさんに手を振った私は、激しく手を振るおっさんの声を微かに聞いた。「ぉーぃ」
どうやら、おーいと言いながら手を振っていたようだ。面白い奴だなと思いながら、それからも私は日課を続けた。
そんなある日、梅雨に入ったせいか、かなりの雨が振り、私はテンションが上がった。
雨の日はいつもとは違う景色を楽しめ、傘に当たる雨音も好きだからだ。
水量が多いためコイは見つけられず、雨なのでお爺さんはラジオ体操をしていない。
雨で濡れているためねこじゃらしも引き抜かなかった私は、交差点のおっさんのところにやってきた。
おっさんは、雨だというのに傘もささず、こちらに手を振っていた。手を振り返すと、激しく手を振りながら、はっきりとこう言った。
「こっちへこい」
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