乗り移り？

祖父が亡くなってしばらくの間、祖母はあからさまに元気を無くしていました。

それまでずっと二人で支えあっていたのです。

急にいなくなった祖父への悲しみが強かったのでしょう。そんな祖母がだんだんボケるようになってきて、周りは心配していました。

私もそんな祖母を心配する一人で、ちょこちょこ顔を見に行っていたのです。

私はその日、祖母があまりにぼーっとするので、心配になって外に散歩に行こうと連れ出しました。

そしたら落ち込んでいつもよたよたしていたのに、その日に限って祖母がすごくしっかりした足取りで歩いているのです。

私は隣で付き添いながら不思議な感じがしました。

そしたら祖母が「毎日のようにありがとうなー」と私に言いました。

そのしゃべり方がなんとなく、いつもと違うことには気づいていました。

話し方がしっかりして武骨で、祖父を思い出したのです。

二人で話していたら祖母が「ばあちゃんはなー、料理が上手でなぁ、おらのために裁縫も上達してなー」と話し出しました。

そしておばあちゃんへの心配をつらつら話しているのです。

私はびっくりしました。

どう聞いても祖母ではなくて、祖父の口ぶりだと思いました。

一通り祖母（自分）の心配をしたかと思うと、「じゃあよろしくなー」と祖母は私に、にかっと笑いかけました。

散歩を終えると、祖母は急に料理を作ると言い出したのです。

これまで何も手に付かないようだったのが嘘のようでした。

そして祖父が大好きだったエビフライとコーンスープを作ってくれました。

その日から祖母は急に元気を取り戻していき、ボケそうになっていた状態から見事に復活しました。

あの日、祖母に乗り移っていたのは祖父だったのでしょうか。

今祖母は「じいちゃんは近くにいる気がする」と言って、一人で元気に畑仕事に夢中になっています。