誘いこむ甘水
投稿者:ぴ (414)
きっかけはやはりあの石だったんじゃないかと思うのです。
当時は不思議なくらいあの石を疑わなかったのですが、後から振り返ったらあの石以外のきっかけが見つかりません。
私はあれのせいで、しばらくの間耳がおかしくなりました。
そのときのことをお話ししようと思います。
子供の頃は女の子とは思えないくらいやんちゃだったと言われました。
同い年くらいの子供を泣かしたり、友達と取っ組み合いの喧嘩になったり、毎日家に帰ってくると服が汚れていることは普通だったらしいです。
それはそれは父も母も手に負えないくらいやんちゃで、祖父母や友達知人に相談して回ったとか。
だからそんな私と遊んでくれるのは近所の同じくやんちゃな男の子たちで、女の子と人形遊びをした思い出なんて一つもありません。
そんな幼少時代、私たちがよく遊んでいたお寺がありました。
お寺の広場がとても広くてよくそこに集まりました。
本当はいけないことだったかもしれないのですが、近くに住んでいた年上のお兄ちゃんに教えてもらって、そこでこっそりビービー弾で遊んだり、駆け回って鬼ごっこをしたり、かくれんぼなどをしました。
そのせいか毎日打ち身や青あざは絶えなかったらしいです。
そんな私がそのお寺にあった石を落としてしまったのは、ほんの小さな失敗からでした。
おそらくかくれんぼをしていた時だったと思います。
隠れる場所を探して、普段あまり行かない石像があるところを通っていたら、何かにぶつかりました。
はっとして後ろを振り向くと石像の上に乗っかっていた石がぐらぐら揺れていました。
そしてそのまま衝撃でバランスを崩した石は地面に落ちて、叩きつけられた衝撃で割れてしまいました。
私に怪我はまったくなかったのですが、壊れた石を見て呆然となりました。
その音にびっくりしたのか、一緒に遊んでいた友達が寄ってきました。
どうしたのかと聞かれて、私は石を落としてしまったと素直に言いました。
多分誰かに怒られると思って、内心びくびくしていました。
でも友達も一緒に怒られるのが嫌だったみたいで、「内緒にしよう」と言い出したのです。
その場で約束して、バレないようにみんなで黙っていることになりました。
大人たちに話して怒られるのが怖かった私はなんとかしてこの石をもとに戻そうと思いましたが、もう落ちて割れてしまった石は修復できそうもなかったです。
その場から逃げ出した私たちはしばらくそのお寺には近づきませんでした。
その代わりに秘密基地と呼ばれる場所に集まって、今度はみんなでいろ鬼などの遊びをするようになりました。
けれどその頃から私は自分の耳の不調に悩まされていたのです。
不調というのも耳が聞こえなくなるような不調ではなく、たまに耳鳴りがしたり、こそこそと変な声が聞こえてくるというおかしな現象でした。
例えば、私が友達と遊んでいたら、耳元で「ねえ、一緒に遊ぼう」と小さな声が聞こえるのです。
「え」と思って振り返っても、そこには誰もいません。
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