奪い愛
投稿者:ぴ (414)
振り向いた彼とまるで「誰?」とでもいうようにこっちを不審そうに見る彼女。
彼が私を友人だと紹介すると、彼女は嫌な顔するかと思えば、にっこり笑って挨拶してきたのです。
あまりに感じがよくて、驚いてしまいました。
しばらく3人で話したけど、彼女はちっとも私のことを知ってるそぶりを見せませんでした。
あまりに徹底していい人を演じるので、ちょっと意地悪なことを言ってみたりもしましたが、反応がありません。
まるで私のことを本当に知らないような態度なのです。
これには私も気持ち悪いと思いました。
そしてそこでやっと気づけたのですが、いつも私を邪険に扱う彼の彼女だと思っていた人と声が違うのです。
電話の声みたいなピーピー高い声ではなく、彼女は少しハスキーでクールな声でした。
そこでやっと私は非通知の電話の人物と彼女は別人なんじゃないかということに気づいたのです。
彼らと別れてしばらくしたら、また私に非通知で電話がかかってきました。
おそるおそるその電話に出ると、あの人物でした。
「あんた誰?」て私は聞いたのです。
そしたら電話口の女性は「マヤ…」とだけ名乗って、それだけ言って電話が切れました。
後日、彼にその話をしたらしばらく返事がなかったです。
そして「え?マヤ…」と彼はしばらく放心状態になっていました。
彼から聞いた話では、数年前にマヤという人物と付き合っていたことがあったみたいです。
あまりに束縛がきつく、別の女性と話しただけで怒り狂う感情的なところがあり、彼はそれに耐えかねて別れたみたいです。
私はなんとなく嫌な予感がし、その後その人が住んでいたマンションを訪れてみました。
そして衝撃的な事実を聞きました。
マヤというその部屋の元住人は数年前に自死により亡くなったらしいです。
身寄りもいなくて、一人で孤独に亡くなったと聞きました。
おそらくですが、彼と別れたことがきっかけの自殺ではないでしょうか。
彼女はもうこの世にいない人だったのです。
私はサーっと青くなって、それから少しずつ彼と距離を取るようになりました。
彼をどうしても奪いたいと思う熱までサーっと引いていった気がします。
どうしても好きでたまらない人ではありましたが、マヤさんのように死んでまでも手に入れたいと思うほどの熱は自分にはないように思いました。
負けたと思ったのです。
彼とは今はたまに連絡を取るくらいの知人な関係です。
私が身を引いてからは、あの非通知の電話はかかって来なくなりました。
ひきこまれました。文章もうまいです。