死者からの謝礼
投稿者:山崎のshadow (1)
私は10年くらい前ですが、当時は地方でタクシー運転手をしていました。その地域は山と田畑しかない典型的な農村であり、ほとんどの業務は病院に通院しているお年寄りを自宅に運ぶことでした。
その日は夜勤のシフトであり、夜になると病院だけでなく他の業種の店舗も閉まっているため、タクシーの仕事はほぼありません。午後10時を過ぎても一回も仕事がない状態にうんざりしていた時、不意に配車依頼の電話が入って出向きました。それは単身者が住むような二階建てのアパートであり、到着すると30代前半くらいの男性がカバンを持って二階から降りてきます。その男性は乗り込むと隣の町にある駅に行って欲しいと言われ、すぐ近くに同じ路線を走る駅があるのに不思議に感じましたが、客からの依頼には応えるのがタクシー運転手なので、そのまま隣町の駅に運びました。その男性はタクシーを降りる際に妙に周囲をきにするように見渡した後で、料金を払って出ると走って駅に向かいました。
変な客だったなと思い返しながら本来の営業区域の場所に戻ろうと車を走らせていると、無線で銀行の裏手で客がいるので行って欲しいと言われます。行ってみると60代くらいの男性が立っていて、手を挙げたので停車して乗車させます。するとその客は「運転手さん、30くらいの男性を乗せてどこかに行きましたか」と聞きます。つい先ほど該当者を乗せたばかりなので隣町の駅に行ったことを告げると、その男性もその男性を降ろした場所に行って欲しいと言います。走行している時に知り合いなのか尋ねると、知り合いではないが会わなければいけないので追いかけていると言います。
隣町の駅に到着すると、その男性は料金に一万円を上乗せして渡してくれました。チップにしても多すぎると言うと、自分には必要ないし、30くらいの男性を乗せたタクシーの運転手の人を見つけたら渡そうと考えていたといって笑顔を見せたので、そのまま受け取ることにして再び隣町に帰っていきました。
翌日に仕事を終えて業務で得た金額を清算している時、チップで貰った一万円札の一部に血痕がついていることを見つけます。その時に営業所に二人の背広を着た男性が入ってきて、警察バッジを提示して昨晩に業務していた乗務員が誰なのか聞いてきました。自分が担当だったと告げると一枚の写真を出します。それは二階建てアパートから乗せた30代くらいの男性でした。乗車させて隣町の駅に送ったことを告げると慌てて一人の警官が携帯電話で連絡を入れたので聞くと、どうやら強盗事件の犯人だったようです。
その手口は夜間金庫にその日の売り上げを入金のために訪れた飲食店店主を包丁で刺して現金を奪い、そのまま逃走していると言いました。最悪なことに刺された飲食店店主は出血多量で即死したそうで強盗殺人事件の犯人だと告げられ、ぞっとしていると自分が持っている血痕が付いている一万円札がきになったらしく、誰から受け取ったのか聞いてきます。
私は60歳くらいの男性からチップとして受け取ったと告げると、どんな男性だったのか質問されたので外見的な特徴を言うと、対面している刑事さんは怪訝そうな表情をしました。何かあったのか聞くと、その刑事さんは写真をもう一枚取り出してから、「まさか、この男性ではないですよね」と聞いてきます。その写真を見るとチップをくれた男性の写真であり、間違いなくこの男性だと言います。すると電話を終えて戻ってきたもう一人の刑事と何かしら話し合いを始めだし、少ししてから私に聞きました。
「この男性ですが、強盗に遭った被害者なんですよ。即死で遺体の方は警察署に安置しています。後で確認してもらえますか」
私は何を言われているのか把握できませんでした。刑事さんは即死だと言っていましたが、私は確実にその男性を隣の駅まで運んでいます。その証拠が血の付いた一万円札ですが、死んだ人間がタクシーに乗車などできるはずはありません。
その一万円札を警察が調べたところ、間違いなく被害者男性の血液であり、指紋も検出されたそうです。最終的には血痕の付いていない一万円札が返却されましたが、あの日、私は殺人犯と死亡したはずの被害者を乗車させたのでしょうか。
地味に怖いお話でした。御冥福をお祈りします。
人生を運ぶのがタクシー何ですよね。
一番おいしいお店に連れてって
何気に世の暗部に入り込みやすいのがタクシードライバーですものね。お気をつけ下さい。