観覧車から覗く人影
投稿者:ぴ (414)
そんな私の訴えに、スタッフの人は困ったように両親を見ていました。
そしたらガタンと観覧車が急に動き出したのです。
スタッフさんが何か手動で動かしたわけではなく、本当に突然動き出しました。
スタッフさんは焦ってすっ飛んでいきました。
私は観覧車を見上げました。
父と母が危ないからと私を引っ張って下がろうとしたのですが、私は意地でも下がらないと踏ん張りました。
そしたら観覧車に乗っていた人がやっと下まで降りてきて、降りられたようでした。
誰が降りてくるのかとまじまじと見ていたら、女の人でした。
その女の人が持っていたピエロの人形を見て、私は「あ・・・」と声を上げたのです。
それはあの雨宿りしたお店で見つけた、ピエロの人形とそっくりだったのです。
紫の服を着ていてあのピエロだと思いました。
その人は私ににっこり笑いかけて、すーっと景色に溶け込むように消えていきました。
スタッフの人がなんとか観覧車を止めたようで、点検していました。
その足元をぺたぺたぺたっと何かが走っていくのを私は見たのです。
ピエロがスタッフさんの足元を走っていくのを私は見たのです。
ピエロはそのまま人込みの中に混ざって、見えなくなりました。
大人になった今思い返してみると、私が見たものはなんだったのだろうと不思議になります。
遊園地という夢のテーマパークの中だったので、当時子供だった私は観覧車から降りてきた女の人が消えていったことも、ピエロが走っていく姿を見たことも、少しもおかしなことだとは思いませんでした。
しかし、今になって思えば、自分はあの日すごい体験をしてしまったんじゃないかと思うのです。
こうして遊園地といえば、あの日のことを一番に思い出します。
父が言う話では、あの日観覧車は故障しており、朝からずっと動いていなかったらしいです。
多分私たちの目の前で動いたのは、誤作動か何かで故障のためだったのではないかと言っていました。
でも私は午前中に間違いなく、動いている観覧車を見たのです。
そして誰かが乗っていて、こちらに手を振っている姿も見ました。
じゃあ、あれはなんだったんだろうと思うのです。
しかし、観覧車にしては一人しか人が乗っていなかったのもおかしなことでした。
いつもはもっと何組ものお客さんが乗っていたりします。
だったら私が見たものがおかしかったのかなと思うのです。
私に手を振ってくれた女の人は誰だったのか、あのピエロの人形はどこに走っていったのか、謎は残ったままです。
これからもきっと忘れることはないと思います。
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