恵那地方の山中にある高校で経験した山の怪異について
投稿者:岩男の憂い (1)
そのとき、真っ暗な植林の中を、何かが移動する音を聞いた。 音はかなり大きく、枝や灌木の踏みしだかれる音からは、小さな生き物ではなく、1体が発しているものと思われた。 音を立てず移動するイノシシや鹿ではない。 クマは人の気配が明らかにあるような場所を歩いて移動したりはしない。 しかし植林の中は暗闇で、懐中電灯の明かりがなければ人間が移動することなど不可能である。
藪をかきわける物音は、植林の奥から、恐らく格技館を見下ろす場所まで近づいてくると、しばらく止んだ。 不安がる女子部員も、ほどなくには保護者が車で迎えにきて、帰宅していった。 最後に顧問の教師と、Iと私が残った。 「山の中だと動物がいるんだな、町中では考えられないよ」 岐阜市あたりの出身である顧問は、こともなげにそう言うと、Iと私に帰宅をうながした。
中年も目前となったある年。 実家に帰省した私は、まだ独身であるIの家を訪れて、このときの思い出話をした。 Iは間違いなくこのときの記憶を忘れずにいたが、表情は暗く、言葉少なに答えた。 「あれは俺の中では、Yのいたずらだってことで済んでるから」 Yとは、高校のある山の下に住んでいた同級生で、Iの悪友である。
後日談となるが、私はこのとき20年を経て初めて、あの日に二人で見たものの情景がすべて共有されていたのではないことを知った。 Iには私が気づかなかった恐ろしいものが見えていたのである。
今年の2月頃だったでしょうか、排水系統を調べる仕事でその高校跡地に行きました。
格技館は対象でなかったので見ませんでしたが、この話を知っていたらそもそもこの仕事を断っていたかも…。