百鬼夜行
投稿者:海野 (1)
どのくらいそうしていたかわからない。泣くことにも疲れてきたころ、唐突に笛の音が聞こえた。その音に、微睡みかけていた意識が引き戻されると、続いて太鼓の音が耳に入った。
よく耳をすますと、石段の上の神社のほうから、祭囃子のような音楽が聞こえる。
私はまた怖くなり、体を強ばらせた。耳を塞ごうにも、腕が縛られているためできなかった。ただ、遠くの方で聞こえていたそれが、段々と近付いてきていることに震えるのみであった。
とうとう、音が自分のすぐ後ろまできた。膝に頭を押し付け石段の端にしがみつき、ただただその音の持ち主が石段を降りる邪魔をしないようにと考えていた。
そのとき、怖いという感情と同時に、好奇心が湧き上がってきた。この音の正体は何なのか、どうしても知りたい、見たい。まさに怖いものみたさ、というやつである。
その誘惑に、私は石段の外の方に向けていた頭を石段の方へ向け、肩越しにそちらを見た。
まず目に入ったのは、赤、である。見上げるほどあるような赤く筋骨隆々の人型のものが、真横を通り、石段を下っていた。その瞬間、私の脳裏には“赤鬼”という言葉が浮かんでいた。
そのあとの記憶は、その瞬間ほどはっきりとは覚えていない。同じようなものや、白や緑などの着物を纏った人影などがぞろぞろと後に続き、ゆっくりゆっくり、滑るような動きで横を通っていった。
所々、笛や太鼓などの楽器を鳴らしている人影があり、音の出所はそれに違いなかった。そして、真夜中のはずなのに、その一行の周囲は昼間のように明るかった。
どの人影もこちらに一瞥もくれなかった。それが良かったのかもしれない。恐怖に強ばっていた体だったが、様々な模様の着物を纏った人影の行列を見物しながら、祭囃子の軽快な調べを耳にしているうちに、少しずつ緊張が解けていった。しまいには、行列からすごく楽しそうな雰囲気を感じるほどになっていた。
気付いたときには、もう行列はいなかった。月並みな言葉であるが、それは、「まるで夢から醒めたよう」とでもいうような感覚であった。
ぽかんとして行列の通った後を眺めていると、不意に山門の方から車のエンジン音が聞こえ、そちらに意識が向いた。
しばらくして、石段を親が上がってくる姿が見えた。近づいてきた親は何も言わず、私の腕を縛っていた紐を切った。そして、また腕を掴み、車へと引っ張っていった。後部座席に座らせられ、発車した。
私は、木々に遮られ見えなくなるまで山門の方を何度も振り向いたが、ただ暗闇が広がっているばかりで、先程の名残のようなものは全くなかった。
後日談になるが、このことを、たった一度だけ他の人に話した。
あれから18年が経ち、私は21歳になった。虐待の経験などによるものだと思うが、深く人を信じられず、自分のことを人に話すのが苦手だった。ただ、そのことを差し置いても、この経験は自分の中に秘めておくべきことだと考えていた。
しかし、最近、初めて深く話せるようになった友人ができた。なんとなく、この人になら話してもいいかもしれない、という思いが生まれ、「信じられないかもしれないけれど」という前置きをして話したのである。
話し終わり、頭がおかしいと思われていないかと不安になった。すると、友人も「信じられないかもしれないけれど」と、全く同じ話の切り出しをしてきた。
なんでも、その友人には霊感があるらしい。そんな友人が言うには、その山に棲んでいるものが、泣いているあなたを慰めてくれたのではないか。そして、あなたにそんなことをした親へ圧力をかけにいったのではないか、ということである。
未だに、あの時の強烈な“赤”は、目に刻まれている。ふとした折に、あの瞬間が思い出される。
幸せになりなさい。というメッセージなのかなぁと思いました。
両親の激しい喧嘩中や、虐待された人が鬼や異形を見たというケースは実は多い。これで4ケース目である。怖いに投票しました
↑の人のコメントが怖かったです
怖い押しました
↑人の強い感情が、何かそういう異界との境を揺さぶることがあるのでしょうか
考えさせられます
こういう話を読むようになって、自分が虐待されていたのだと知った。
3歳時の記憶なのに事細かく覚えているのが凄いです!
三才の記憶なんて全くないなぁ!
幼稚園ぐらいならあるけど!
同級生の女の子が「私は歯医者さんと結婚する」と言ってた❗
20歳ぐらいのとき おかんが「かあくん歯医者になりたいって言ってたなぁ」と同じマンションのいっこしたの男の子の話してた!
数十年来の疑惑が
溶けた瞬間やったで!
子供の時に親からお仕置きをされて家に入れてもらえなくて、近所の神社のベンチで寝たことはあります。
笛の音を聴いている感じの夢を見ました。メロディ覚えてないんですが。
3歳の記憶というところを自分に当てはめるとまったく覚えてない
もしかしたら3歳という認識がないだけで覚えてるのかもだけど
調べてみると3歳が23.2%という記事を見つけたので、あながちないとも言い切れないのかな?って・・
記憶が鮮明すぎる気もするけど、ってところが気になりすぎてしまった
幸せになって欲しい
かわいそう過ぎて、泣きそう。自分がしていること、反省します。
俺も幼い頃に好き嫌い激しくてご飯に文句言いまくってたら裸にされて外出された記憶がある。
大人になってから母に聞いたけどそんなことする訳が無いじゃないって言われたけど強烈に覚えてるんだよな。
捨てられたと思って泣き叫びながら走り回ってた。
霊的なことはなんもないけど泣き叫びながらフルチン男児が走ってたもんだから若い女性が悲鳴上げてたよ
虐待じゃないけど友達が森か何かで迷ったとき、急に視点が高くなったと思ったら1つ目で右手しかない何かに肩車されてそのまま車通りが多い道に連れて行かれて助かったみたいな話をしてたな。