部室棟の女
投稿者:すもも (10)
そう思うともう怖くて立ち上がる事も出来ませんでした。
そして、私が恐怖にうちひしがれていると、
「うおお、ビックリした。まだ残ってたのか?てか、何してんだそんな所で」
と聞き馴染みのある声に反応する様に顔を上げれば、ついさっき下校時刻を告げに来た巡回の先生が私を怪訝そうに見下ろしています。
「え?あ、あ…すみません」
私はよく分からずとりあえず謝ってしまいましたが、すぐに周囲を見渡した後、後ろを振り返りました。
しかし、何処を執拗に確認しようともあの女の影一つ見当たらない事から、私はドッと息を吐きました。
恐らく息を殺していた事から本能のまま最低限の息継ぎだけしていたせいで酸欠に近かったのだと思います。
「ほら、もう遅いから早く帰りなさい」
「あ、は、はい」
先生は私が覚束ない足取りをしていた為か「大丈夫か?」「もしかして体調悪いのか?」と気遣ってくれましたが、私も私で一刻も早く部室棟から抜け出したかったので大丈夫だと申告してそそくさと下駄箱を突き抜けました。
外に出れば既に完全なる闇夜。
至る所で街灯が煌々として進路を照らす光景が広がっていました。
そこでもう一度後ろを振り返れば、先生が中へと入っていくのが見えました。
その時、私はあの女の事を言うべきかと迷ったのですが、あれが人なのか幽霊なのか確信が持てなかったので言葉を呑み込む事にしたのです。
その代わり、少し離れた場所で部室棟を見守っていたのですが、3階から順に消灯していくのが見えると、最終的に先生が平然と玄関口から出てきて戸締りをし始めました。
その様子から先生はあの女を見ていないのだろうと思い、私は言わなくてよかったと思い帰路につきました。
それ以降は特に変わりない日常が続いて私もあれが幻覚の一種なのではと思うようになりました。
ただ、あんな体験をした後、私が居残り練習を辞めたので、あの女を見なくなったのはきっとそのお陰でしょう。
今でも部室棟で居残り練習をする生徒が居るので、もしかしたらその中の誰かが私と同じ体験をしているかもしれません。
それを聞いて確かめる気力も勇気もありませんが、そういった怪談話が学校内で広がっていないと言うことは、恐らく私だけが体験したか、体験したけど私の様に黙り通しているだけかもしれないですね。
今思い返してもあの女の顔が鮮明に浮かびますが、今の所、害は無いようなのでこのまま平穏に過ごせる事を祈るばかりです。
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