心配して病院まで駆け付けてくれたおやっさんの車に揺られながら、あの後どうなったのかを教えてくれた直哉。
あの白骨化した遺体は数年前から行方不明になっていた女性のものだったらしく、身に付けていた衣類からすぐにその身元は判明したとのことだった。
流されて岩礁に引っかかっていたところを、たまたま俺達が発見したのだ。
その足に付いたままだったフィンが、人魚に見えてしまった原因かもしれないと言った直哉。
もしかしたら、今も時折見たとの目撃情報のある人魚は、水難事故によって亡くなった人の姿を見間違えているだけなのかもしれない──。俺は、薄っすらとそんな風に思った。
けれど、今もなおハッキリと覚えている、俺の頬に触れたあの柔らかい手の感触。あれも、俺の見間違いからくる幻だったのだろうか……?
それを確かめる術などあるはずもなく、例えあったとしても確かめる勇気が俺にはない。
──あれから五年、俺は一度もあの海には行っていない。
─完─
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