いつもいる人
投稿者:ぴ (414)
私たちは前に二人だけ残されて他の事務員は後ろに引っ込んでレセプト処理などをしていました。
他愛もない世間話を楽しみながら二人で働いていたのですが、患者が少ないのでしゃべりに夢中になっていたら急に相手の子がしゃべらなくなりました。
怪訝に思いながら後ろを振り向いたら、その人が立っていました。
その人は私を見るとすぐに嫌味を言ってきました。
「はい、口より手を動かしてね~」と言われてしまったのです。
もう一人の職員が「すみません」と上目遣いに謝ると、「いいのいいの、○○ちゃんは仕事ができるからね」とさりげなく私がディスられました。
私はとりあえずすみませんと謝り、業務に集中しようとしたのです。
しかしそこで違和感に気づきました。そう、ふといつもいる人がその人の後ろにいないことに気が付いたのです。
その人が後ろを向いて去っていくときに、私はまじまじとその人の背中を見ました。
そしたらいつもいる人がいなくなっているのです。
私はしばらくちらちらと周囲を伺って、いつもいる人を探してみました。
ほかの人に乗り移っていたらどうしようと不安になりました。
でもどんなに探しても職場のどこにもいなかったです。
とりあえずその日のあの職員はとても機嫌がよく、「いつもより体が軽い」なんて後ろで話しているのを聞きました。
私は絶対いつもいる人がいないおかげだと思いました。
その人が後ろに引っ込んだら、目の前の子が心配してくれました。
どうやら私があの職員にいびられているのを見て気遣ってくれたのだと思います。
「いつも言われてるでしょう。大丈夫?」とこそっと私に聞いてくれたのです。
そして私がこれまで知らなかったことをそっと教えてくれました。
どうやらその職員は昔はみんなに優しい人だったといいます。
私にはにわかに信じられなかったけど、いい人だったそうです。
その人が変わったのはその人の母親が亡くなってからのことでした。
母親とはすごく仲が良かったようで、早すぎた母の死で葬儀のときには大泣きして嘆いていたと聞きます。
そしてその頃から急に口調が穏やかではなくなり、自分が気にくわない人をターゲットにして、人を虐めるようなことをするようになったみたいです。
母親が亡くなったことがよほど堪えたようです。
それから人が変わったような性格になり、今に至るといいます。
何かあったら相談してねと言われて、私はその人の優しさに救われました。
そしてそろそろ私が上がる時間になったときに、とある人が現れたのです。
突然事務室のドアが開き、知らない壮年の男性が訪ねてきました。
なんとその問題の職員の父親でした。私はその人を一目見て、その職員の父親だと分かりました。
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