山の祠

「学校はたのしか？」

「まあ、それなりに楽しいよ。友達もいるし」

すっかり遠足気分になった俺は爺ちゃんと婆ちゃんに挟まれながら、そんな日常会話を交わしていた。

暫く進むと墓所の一部が視界に飛び込んでくる。
台座の部分は苔一色に染まっているが、こうしてみると伝説の剣がブッ刺さっていそうな山奥の秘所にも見える。
それにちょうど森林の天辺が開けているのか日射しが絶え間なく差し込み後光が掛かった様に神秘的に映っていた。

恐らくコンクリートだろうが、台座ともいえる土台には石段があり、墓は全部で四つ並んでいる。
全部母方の血縁の墓になるが、爺ちゃん婆ちゃんのご先祖様はその中の一つ、右端だ。

まあ、墓参り自体は四つとも行うから結局全部の掃除はするし、線香も立てなければいけないけど。
中学生の俺にとってこの行事の一番嫌いな所がこの面倒な掃除だった。

山の中だから落葉枯葉はまさに山の様に重なってるし、当然気持ち悪い虫がわんさかと居る。
そして、俺が最も苦手な蜂も旋回して俺を狙っているから、本当に苦行だった。

蜂が現れる度に母が団扇と虫除けスプレーの合わせ技で牽制してたが、それキンチョールじゃないから意味ないんじゃと俺は内心呟いていた。

そんな事をしていると、俺はふと墓所の敷地の端、更に山の奥へと続く雑木林に獣道がある事に気付いた。

鹿だろうか？
それくらいの大きさの動物が通れるくらいの道幅に沿って、不自然に土が踏み潰されて草が生えていない。

「爺ちゃん、この先なんかある？」

箒を持って近場の枝先に張り付いた蜘蛛の巣を取り払っていた爺ちゃんが振り向くと、少しぎょっとした表情で俺を睨んだかと思えばフイっと顔を逸らせる。

「何もねえ。それよかこっち手伝ってくれんかね。蜘蛛の巣がかなわんわ」

「あ、うん」

いつになく重く圧し掛かった爺ちゃんの声量に威圧され、俺は素直に手伝う事にした。

掃除も滞りなく終わって無事に墓参りすると、長居する事もないのですぐに下山する事になる。
ただ、俺が例の獣道が気がかりでじっと後ろ髪を引かれる様に見ていると、婆ちゃんが手を引いてきたので仕方なく下山する。
それでも時折後ろを振り向いては獣道を見ていたんだけど、爺ちゃんに「前見てあるかんと危ない」と叱られた。

翌日、テレビ見たり、婆ちゃんの手料理の手伝いをして朝食を迎えたり、爺ちゃんと囲碁をしたり、全員でトランプしたりと休日を満喫していたが、ちょうど昼過ぎ辺りからそれぞれが居眠りを始めたりと自由時間が出来始めた。

そこで俺はちょっと外を散歩してくると言って家を脱出する事に成功した。
勿論、目的はあの墓所なんだが、徒歩では距離がありすぎる為、俺は爺ちゃんから自転車を借りて墓所まで全力疾走する。

まあ、自転車でもそれなりの距離があるから午前中の比較的涼しい時間帯でも汗はびっしょりになった。

山の麓に自転車を停めて、俺は徒歩で山を登っていく。
途中、見た事も無い虫が飛んでいて悲鳴を上げてしまったが、こんな事ならキンチョールでも持ってくればよかったと後悔する。