初盆なのに家に入れなかったおじいさんの幽霊
投稿者:ハムレット (4)
それは、八月の暑い夜のことでした。当時、私は事務の仕事をしており、その日は夜の8時ごろに最寄りの駅について、帰宅を急いでいました。
駅から家までの距離は1キロほど。住宅街の中を通っていくので街灯もあり、見通しもよく、暗がりを歩くということはありません。
私は蒸し暑い中をせかせかと歩いていました。
私は、中学生のころまでよく墓参りに行った夜には必ず金縛りにあったり、放課後、誰もいない教室で姿が透けて見える女の子を目撃したりした経験がありましたが、大人になってからは全くそういった経験が無くなっていましたので、霊感はほぼない方だと思っていました。少なくとも、その夜までは。
私は、会社への行きかえりにとあるおうちの塀に咲く朝顔を見るのが日課になっていました。
その日も、そのおうちの朝顔を見るともなしに、ちらりと見ると、そこには粗末な浴衣を着た、一見して病人とわかる憔悴しきった老人が立っていました。
というより、そのうちの壁から生えているように見えました。「…入れない…」というとてもかすかな声が聞こえたような気がしました。
そのうちは、春先に増築し、それに伴って玄関の場所が変わったのです。
「ああ、気の毒に。このうちで亡くなった人で玄関が変わったからうちに入れないのだろう」と思いましたが、どうやらそのおじいさんの幽霊と私の波長がかみ合っていないのか、私のことは目に入っていないようでした。
その家は、母の知人の家だったので帰宅してすぐに母に電話し、『〇〇さんところって、去年、おじいさん亡くなった?」と尋ねました。
「そう、今年初盆って聞いてるよ」と母の返事。私は「旅館の浴衣みたいなのを着たおじいさんが、家に入れないってしょんぼりしてたけど」と見たままを伝えました。それを聞いて母は、すぐに知人に連絡すると「亡くなった時、パジャマではなく浴衣だった」といい、「先に亡くなったおばあさんが手縫いで誂えた浴衣だから死に装束は絶対それを着せてくれって言ってたんだって」「それで、玄関が変わったよってあんたが教えてくれた場所で言ったら、夜中にお仏壇のおりんがチーンって鳴ったんだって」と教えてくれました。
あれから、そのうちの横を通るたびに、あんなにはっきりと幽霊を見たのにどうして全く怖いと思わなかったのか、自分でもとても不思議に思っています。
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