同じ顔の人

思わず「本屋でバイトしたことはない？」と聞いてみたらきょとんとされてしまいました。

顔は本当に本屋でよく見かけた女性と瓜二つなのです。

同じ顔なのに別人だということに私はすごく不気味だと思ってしまいました。

こんなに似ている人いるんだと思ったし、なかなか信じられなかったです。

だけどその人との会話では聞く限り筋が通っておかしいところは少しもありませんでした。

私はこうしてやっと今目の前にいる人があの懐かしの本屋の店員さんではないと理解し、しょんぼりしてしまったのです。

世の中にあんなに似ている人っているんだなと思うくらい瓜二つの顔をしていました。

兄弟のことも聞いてみたけど、一人っ子だと言われました。他人の空似ということで私は納得せざる終えなくなったのです。

釈然としたいものを抱えながらも、次第にそのことも頭の片隅から消え始めていた頃、私はその人と三度目の再会をしたのです。

あれは会社の出張で北海道で宿泊したときのことです。

宿泊先の隣の部屋でその女性と再会しました。

会った瞬間、私は「あ」と思わず声を漏らしました。

私が部屋に入ろうとした瞬間にあの女性が部屋から出てきたのです。

そしてこっちを見てすごく不思議そうな顔をしました。

忘れられていると思った私は慌てて名を名乗りました。

でも相手は怪しい人を見るような目つきでこっちを見て、私を避けようとしたのです。

慌てて引き留めて私は飲み会の話を出したのですが、相手はこっちのことをまったく覚えていないみたいでした。

だから慌てて飲み会をした知人の名前を出したりしたけど、それでもダメ。最終的に地元の本屋の話まで出してみたけど、知らないと言われました。

女性は完全に私を不審者を見るような引いた目で見ていて、ちょっと傷つきました。

ホテルに泊まっている間に何度かその人とすれ違いましたが、私を見るなり、ものすごく警戒されて距離を取られました。

そりゃそうですよね。突然初めて会った人に会ったことあるような素振りで詰め寄られたら怖いと思います。

本屋の人の印象とも、飲み会で会った人の印象ともまた違った大人しそうな人で、私は混乱しました。

これで同じ顔の人に3回会ったのに全員別人だと言われたのです。

狐に化かされたようなとても不思議な気持ちになりました。同じ顔の人ってこんなにいるものなのでしょうか。

私の記憶力が悪いと言われればそれまでなのですが、どちらかというと記憶力はいいほうと思っています。

そして本屋さんで慣れ親しんだあの顔を見間違えるはずもないのです。

これほど何度も同じ顔の人に出会うとちょっと怖いです。

似ているとかいう次元ではなく、同じ顔なのです。

私はそれ以来、その女性とまだ4回目の再会はしていません。

だけど、その内また会いそうな気が沸々としていて、ちょっと不安になります。