絵画の家
投稿者:四川獅門 (33)
「この部屋だけ落書きがない……」
「ほんとだ……」
家の他の場所はスプレーで落書きをされたり悪戯に家具が壊されていたが、その部屋だけは住めるほど綺麗だった。ベッドも棚も壊されていない。
急に不法侵入していることを思い知らされたような、妙な緊張感が走った。
「あれ、あの絵じゃない?」
彼女の指さす先を懐中電灯で照らす。裸婦画だが、おかしい。皮膚は蝋のように白く、骨と皮のようにやつれきった女が背を向けてベッドに寝転んでいる。ベッドの下には男の子が隠れるように這いつくばっている。
それだけじゃない。
「この絵……」
「え?」
「この部屋を描いてるぞ」
懐中電灯を握る手が汗で滑る。膝を着き、恐る恐る背後にあったベッドの下を照らす。
「これは……」
子供服だ。絵の中の男の子が着ている服とよく似ている。思わず絶句して、古い家が軋む音だけが響いていた。
『キィ……キィ……キィ……ヒヒ』
同時に気付いた。軋む音は絵画の方から聞こえていた。家が軋む音ではない。女の笑い声だ
「帰るぞ!」
走ってリビングの窓を目指した。笑い声が後ろから近づいてくる。
リビングの窓の割れ目から外へ出て車に乗り込んだ。そこから町に出るまで無我夢中で林道を走った。その後は重たい沈黙が続いた。
無事に部屋に着いた。逃げる時にどこかに引っ掛けたのか、右腕から流血していた。大した傷では無かったが異様に痛み、長引いた。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
彼女はそればかりだった。それからは何事もなく過ごしたが、時が経つにつれなんとなく彼女から気持ちが離れていった。
ある日上京する事を告げ、彼女とは別れた。音信不通になって数年経った。よくある事だろう。
先日の同窓会で同級生がこんな話をしていた。
『 絵画の家って知ってる?』
『 知ってる!2階の絵がヤバいってやつでしょ?痩せた女とベッドの下に男の子がいる絵だよね』
『 違うよ』
『 ベッドの下にいるのも女の人だったよ』
彼女…