山で私になりすます声
投稿者:津々 (42)
我が家は山菜を採って販売をしています。
普段は父・母・私の三人で山に入るのですが、あの日は父の体調が悪く、私と母の2人で旬である姫竹(タケノコ)を採るために山に入りました。
我が家では、「お互いの距離が離れすぎない。お互いの声が届く範囲に居る」という決まりがありました。
理由は簡単で、「遭難しないため」です。ニュースなどで報じられる以上に山菜取り中の遭難事故は多く、我が家では本当に気をつけていました。
母と二人で山に入ってすぐの事でした。お互い定期的に「おーい」と呼ぶ声がだんだん遠くなっていくのです。
なので私は、「あんまり遠くに行くな」と母に叫びましたが、ついに母の声は聞こえなくなりました。
この時、私は「母の方が山になれているから大丈夫か」と勝手に思い込みタケノコを採っていました。
しかし、数時間経っても母親の声は聞こえてきません。
心配になってきたので母の携帯電話に電話をしたのですが圏外でした。
普段入っている所は山の中でも圏外にならない所なので、余計に心配になりタケノコ取りを止めて母を探すことにしました。
その後、何時間も探しましたが母は見つからず警察に連絡しようとした時でした。
見知らぬ車が山道を走って来て、その助手席には母の姿がありました。
私は、急いでその車に駆け寄ると母はその車の運転手に深々と頭を下げお礼を言っていました。
すると、車の運転手は私に「お母さん、大事に至らなくて良かったね」というのです。
母と運転手の2人に話を聞くと母は一山超えて反対側の山道に出たところをこの運転手に発見されたそうです。
いくら山になれた母でも足はがくがくでした。私も運転手にお礼を言って母を念のため病院に連れて行く事にしました。
その道中に聞いた話なのですが、私は母に「何で声が聞こえなくなるほど遠くに行ったの?」というと母は「ずっとお前の声がした」というのです。
そしてその声は母に「こっちに一杯あるぞー」「今の季節に珍しい行者ニンニクもあるぞー」と話しかけて来たそうです。
実際に声の方に行くと本当にたくさんのタケノコと季節外れの行者ニンニクが沢山なっていたそうです。
母は見つけた山菜を採りながら私(声の主)に「お前もこっちに来てとれー」と声をかけても返事が無かったそうです。
しかし、山菜を採っている時にかすかに「フフッ」と笑う男の声が聞こえ、母は直感的に「この笑い方は息子(私)じゃない」と思ったそうです。
すると突然怖くなり山中を彷徨い遭難してしまったそうです。
私たちが入っている山は毎年のように遭難者が出て死者が出ている山なので、多分ですが母は引き込まれそうになったのかもしれません。
憶測ですが、この山で遭難者が多い理由は幽霊が知り合いの声真似で奥地まで誘い込んでいるからではないでしょうか…
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