お局の復讐
投稿者:とくのしん (65)
前の職場で仲がよかったSから突然LINEが来た。
「私も辞めました!」
俺が辞めたあと1年程して退職したという。同じバックオフィス組として仲が良かったことから焼肉でもと誘ったときに聞いた話である。
俺がいた部署は総務・経理・人事がひとまとめになった統括管理部という部署で、そこにYというお局がいた。会社が設立されたときからの社員のため、それはもうでかい顔をしていた。
部署長のAは専務兼部長という肩書で、社内では№3という立ち位置。何かとYを重宝していた。Aは既婚でYは独身、あまりの親密ぶりから不倫関係にあるのではないか?と社内でも噂されるほどだった。そんな後ろ盾もありYの絶対君主ぶりはそれはもう目を見張るばかりで、他部署の別のお局はおろか役員ですら逆らうことなどもっての他であった。
とにかく引っ掻き回すのが好きだったYは、あることないこと言いふらし、常に誰かと誰かを対立させる。散々ひっかき回したあと、飽きた頃に自分が何食わぬ顔で仲裁を買って出て、「ほら、私のおかげで解決したでしょ?」とドヤ顔で争いを収めていくのだ。
自分も散々そんな騒動に巻き込まれ、挙句Aに目を付けられて退職するハメになったが、まぁ転職先に恵まれたこともあって、ある意味Yには感謝している(笑)
俺が辞めたあともそんなことが続いていたが、会社が大手に買収されることになった。社長に後継者がいないことから会社を売ることになったそうだ。買収先から新しい社長がやってきて、前社長は退任することになった。Aは自分が後釜になれると思っていたところに、新しい社長が来たものだから逃げるように辞めていったそうだ。
残されたYは後ろ盾を失い、これまで散々好き勝手やっていたところに社長と新しい部署長がやってきたものだから、借りてきた猫のようにおとなしくなった。しかも社歴が長いだけで仕事ができるわけではなかったこともあり、今まではAが庇い立てしていたことも新しい部署長から叱責されるという日々を送るハメになった。
そんなYにもちろん誰も助け船を出さなかった。職場では孤立していき、ゴマをすっていた連中ですらYを拒絶し始めた。自分が今までしてきたように社内ではYがAに捨てられたとか、会社の金を横領していたとか、色んな噂が飛び交った。
元々老け顔だったYは見る見る老婆のようになっていき、ブツブツと独り言を話すようになったそうだ。その変わりっぷりにSは「ホラー映画みたいでした」と形容していた。
新体制になってから半年、ついにYが退職することになった。今まで被害にあってきた面々から労いの言葉すらなかった。そんな白けた社内でYは「今までお世話になりました」と一言だけ呟いて菓子折りを置いて会社から去った。
「毒でも入ってるんじゃね?w」
営業のUが冗談まじりに言いながら菓子折りを開けると、地元で有名などら焼きの詰め合わせ。
「さすがに大丈夫ッスよねw」
Yが去った歓喜に包まれた一同は、ワイワイとお茶を入れてそれを配った。
「毒でも」と言い出したUが真っ先にどら焼きを頬張った。
「うううううううう」
社内一のお調子者らしくお決まりの声を上げた。
「うううううう」からの「美味い!」か「毒が入ってた」の2択かと誰もが笑っていたという。
しかし
「うえええええええ・・・髪の毛が入ってる・・・」
と口から長い髪の毛を気持ち悪そうに吐き出した。その場にいた全ての者の顔色が青ざめたという。一人、また一人どら焼きを箱に戻していくと、営業事務のKが箱の裏に手紙が添えてあることに気づいた。その文面には
「今までお世話になりました。毒は入っておりませんので、美味しく召し上がってくださいませ」
と赤文字で書かれていた。
Yもその他社員の皆さんも、会社を何と心得ているのでしょう…。出来の悪い中学生の集団みたい。
こういう会社珍しくないですよ。
こんな会社なかなかないだろw