誰かが飛んだ
投稿者:狐の嫁入り (6)
京子さんはその日、いつもの様に早朝のプラットフォームで電車を待っていた。
片道一時間の通勤電車にもようやく慣れ始めたとはいえ、人混みの中電車を待ち、これから満員電車に揺られ行くのだと思うと、少し億劫でもあった。
『一番乗り場、一番乗り場、快速電車が到着します──』
ホームのスピーカーから駅員のアナウンスが流れる。
京子さんはスマホをバッグにしまい遠くからやってくる電車に目を細めた。
徐々に近付く先頭車両。
京子さんを通り過ぎるその直前だった。
彼女の視界を何かが横切った。
「え……?」
呆気に取られ声を漏らす。
それは……女だった。白いセーターを着た若い女性。
それが京子さんの目の前を横切り線路へと飛び込んだのだ。
──キーンッ
耳をつんざく様なレール音が鳴り響いた。
電車が急停止を掛け止まった。
「人が飛び降りたぞ!!」
「女だ!」
「駅員さん!駅員さん!?」
周囲が絶叫する中、京子さんは唖然とした顔で線路に視線を落とした。
女が飛び降りた場所。血などは流れていない。
余りの事にショックを受けた京子さんはふらつきながらその場に座り込んでしまった。
周りには一気に野次馬が集まりだし、スマホで撮影するものまで現れだした。
やがて駅員達が人混みを掻き分け、女が飛び降りた箇所を念入りに調べ始める。
「下がって!危ないから下がってください!」
注意を促す駅員に、誰も耳を貸そうとはしない。
それどころか興味本位で近付く人で溢れかえるばかり。
その時だ。
──キーンッ
背後から電車の急停止音がまたもや響いた。
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