とめてほしかったのかな?
投稿者:剛毅 (5)
今から10年くらい前の話です。
私は当時、某政令指定都市の駅近くの職場で仕事をしていました。
ある朝、仕事のため、部下と2人で車を使い外に出ることになりました。
会社は都会にあったため、狭い駐車場にある車を道路に出すため、バックで道路に出るのは危険が伴います。
目の前の道路自体は裏道のため、車や人の通行量は少なかったのですが、事故を起こしてしまう可能性は否めません。当時は社員の軽微な事故が頻発していたため、会社自体も事故に神経質になっていた時期でした。
私が車を運転し、部下に誘導をお願いしました。
狭い駐車場で何度も車を切り替えし、道路に人がいないことを部下が確認して無事道路に出ることができました。
部下に礼を言って5分くらい運転していると、部下の携帯宛てに課長から連絡がきました。
部下で電話に出ると、「そうなんですか。いや、気がつきませんでした。」などと応えていました。
部下に確認すると、「会社のすぐ近くのビルから男性が飛び降り自殺を図ったみたいで、今パトカーや救急車がきて、大騒ぎになっている。何か知らないか?」との問い合わせでした。
当然私も部下も何も見ておらず、落下音も聞いていません。
その時は、「そんなこともあるんだね。」という感じで終わりました。
その後、そんなことも忘れて夕方に帰社すると、私と部下が課長に呼ばれました。
課長は開口一番、「これを見てくれ。」といい、会社設置の防犯カメラ映像を見せてきたのです。
訳も分からず私達が見ていると、私が車を何度も切り替えし、部下が一生懸命車を誘導している朝の映像が映っています。
「何でこんな映像を見せるんだろう?」
と疑問に思いつつ眺めていると、部下の真後ろを一人の男性が横切ったのです。
私は、「あれ?」と感じました。
もちろん道路なので人が歩いていること自体は珍しくありません。
しかし、その男性は部下をじっと見つめながらフラフラとゆっくり歩き、通り過ぎたかと思うと立ち止まり、部下の方に振り返りました。
ジッと部下を見つめる男性は、寂し気で何か言いたげに見えました。
部下は車の誘導に夢中で、男性の存在に全く気がついていません。
男性は何か迷っているように体を左右に揺らすと、意を決したかの様に部下に近づきました。
その時です。
部下が車の誘導の都合で2,3歩前に動いたため、男性との距離が開いたのです。
その動きを見た男性は足を止めると、背中を向けて去って行きました。
「この人らしい。」
映像をとめた課長が言います。
「え?」
私が間の抜けた声を出すと、課長は、
なんか切ない…
鼻がじわじわする、こんな短いのに悲しく
なる、、、