あの世行きのバス
投稿者:kyogoku (4)
「いいえ、怖くて連絡してません」
「その話が本当かどうか、ちょっと今から電話してみようか」
後輩の話を半信半疑で聞いていたが、夢か現実かはっきりさせてみたくなり、X市のY寺に電話してみた。
「はい、1週間前の夜、お見えになった女性にタクシーを呼んで差し上げましたよ」
驚いた事に、後輩の言っていたことは本当だった。
後輩にそのことを告げると、「是非お礼がしたい」とのことだったので、次の休日にお寺へ伺う事となった。
酒を呑みながら、寺の場所と、バス停を位置を確認してみると、奇妙な不一致が見つかった。
「おいこれ、ちょっと見てみろよ。お前がおりたバス停Zだけど、山の中で、電灯なんかないぞ。あと、バス停ZからY寺まで直線距離で1時間は掛かるぞ。バス停間違ってないか?」
「いくら酔っていたからって、バス停を見間違えるはずはありませんよ。でもそうですね。確かに先輩の言うとおりですね」
バス停Zから確かに3本の道が伸びており、正面は寺の方面に向かっているが、途中何ヶ所かで曲がる必要があり、まっすぐ歩いて5分で着くのは無理な話であった。更に、残る左右の道は、どちらも行き止まりで、その先はガケになっていた。Y寺周辺に該当するバス停を探したが、結局見つけ出すことはできず、その日はお開きとなった。
「その節はお世話になりました」
「いえいえとんでもございません」
X市のY寺へ着くと、住職が出迎えてくれた。後輩を助けてくれた男性が住職だった。
「実はあの日の夜、電話があったんですよ。”今から女性がそちらに行くので、保護してほしい” と。」
「そんなことがあったのですか…」
後輩は、あの夜に起こった出来事を包み隠さず住職に話した。バス停Zで降りて5分で寺に着いたことも添えて。
住職は、少し考え込んでから「大変でしたね。」と答えた。
「実は、以前も同じような電話が掛かってきたことがあったのですよ。あなたで2人目なんです」
「…そうだったのですね…」
「これは想像なんですが、あなたが乗ったバスは、あの世へ行く方々を載せたバスなんじゃないかと思うんです。そのバスにまだ生きているあなたが乗ったので、みなさん驚いて、慌てて現世に送り届けてくれたんだと思います」
「でも何で私がそんばバスに乗っちゃったんでしょうか?」
「恐らく、仕事で失敗して、心の中にマイナスの気が強く溜まってしまったので、あなたをあの世へ行く方だと勘違いしてしまったんじゃないでしょうか。」
「私があのままバスに乗り続けてたら、どうなってたのでしょうか…」
「そうですね、もしかしたら死んでいたかもしれませんね。ですから、車掌さんに伝えてくださった老人の方に感謝致しましょう。」
そう言って、その老人のために住職はお経を読んでくれた。
住職にお礼を言って別れようとした時、住職はこう言った。
「いい忘れてました。バス停Zから真っ直ぐ歩いて正解でしたね。あの時、バスの運転手の言うことを聞かず、別の道を歩いていたら、もしかしたらいまこうしてお会いできなかったかもしれませんからね。本当に無事で良かった。」
そう言い残し、寺に戻る住職を2人で見届けるた後、家路に向かって歩き出した。
シンプルでいい話
あの世行きは電車もバスもあるのですね
ありそうで、なさそうだけど、よく考えると怖い話。
最初男だと思ってた後輩が途中から女だったとわかった。