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不思議体験

足が太いさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

不思議な電車
長編 2022/04/26 20:54 6,524view
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ついこの間起きた出来事なんだけど、某駅でICOCAをチャージしていたら、隣に見知らぬ老婆がやってきて「この機械で切符が買えるんですか?」って聞いてきた。

よくよく話しを聞いてみると、その老婆はもう何十年も駅を利用したことがなくて、久しぶりに来たもんだから使い方が分からないんだって。

暇だったのもあって、切符の買い方を教えてあげて、どこの駅まで行くのか聞いてみて、その駅まで向かう電車が来るホームまで連れていってあげたんだ。

ホームで電車が来たから「じゃあ、さよなら」っていう風に別れるかと思ったんだけど、老婆が「1人では不安だから、ついてきてほしい」なんてことを言う。

その日はちょっと買い物に行こうと思って外に出ていたんだけど、別に買い物は老婆を目的地まで送った後でも出来ると思ったので、ついてってあげることにした。

老婆は今いる駅から5つ目の駅で降りると言うので、その駅で別れることにして、一先ず一緒の電車に乗ってちょうど空いていた座席に隣同士に座った。

私達が座った座席の周りには誰もおらず、休日の夕方なのにやけに閑散としているなと、その時は呑気にそう思っていた。

電車に揺られて約15分程、本来であれば老婆の目的地である駅までは10分くらいで着くはずなんだけど、10分過ぎても辿り着かないことに気づいた。

それどころか、この電車は動き出してから10分の間、一度も駅に停車していない。

そのことに気づいて、まず思ったのは、「しまった、乗る電車を間違えたか」だった。

でも、「あれ?何かおかしいぞ」って思って冷静になり窓の外を見てみると、電車は何故か森の中を走っている。

そこそこ都会の街中を走る電車なので、森の中っていうのは明らかにおかしい。

何でこんなことになっているんだろうと思っていると、隣に座っていた老婆が「ああ、やぁーっと帰れるわぁ。もうずーっとずーっと迷ってたのよ」と、誰に聞かせるでもなくボソッと呟いた。

こちらが何も言えないでいると、老婆は続けて「長かったー、あああ、本当に長かったー。本当に本当に長かった…」と呟く。

老婆に対して妙に胸騒ぎというか、恐怖心が芽生えてきたので、そっと視線を外して、何も答えず黙っていた。

「帰れる、やっとやっと帰れる。長かった、ああ長かった」と、ぶつぶつと呟く老婆を視界に入れないようにしながら、「これからどうしよう」「この電車はどこまで走るんだろう」なんてことを考えていたら、前の方から誰かが歩いてくるのが見えた。

服装を見るとどうやらこの電車の車掌さんらしく、私達の前までやってくると、まずは老婆に「*******をお見せください」と声をかけた。

「*******」っていうのは何なのか聞き取れなかったけれど、老婆はポケットから1枚の小さな紙片を取り出して、それを車掌さんに渡した。

車掌さんは紙片にポンッと判子を押して、老婆に渡すと、今度は私の方を向いて「*******をお見せください」と言う。

私が「そ、その、何ですか?よく聞き取れなくて分からないです…」と恐る恐る言うと、車掌さんは一瞬だけ不思議な表情を見せ、「ああ、あなたは間違ってこの電車に乗り込んだんですね」と言った。

続けて、「この電車は、あなたのような方は本当は乗せないんですが、こちらの方が連れてきてしまったんですね。それは大変なことでした」と言って、老婆を指し示した。

そして、「本当はずーっとずーっとずーっと先まで電車は止まらないんですけども…。あなたのような方を乗せていると、それがバレちゃうと、私が後で上に怒られちゃうので、次の駅で電車を止めます。そこで降りてください。きっときっと降りてくださいね」と言い残し、次の車両に行ってしまった。

車掌に言われたことを頭の中でかみ砕こうとしてもよく理解出来ず、自分は一体何に巻き込まれてしまったんだろうと不安に思っていると、電車が急停車して扉が開いた。

「あ、そういえばここで降りろと言っていたな」と車掌の言葉を思い出し、隣の老婆に「では、私はここで降ります」と言って、老婆の返事を待たずに逃げるように電車を降りた。

電車を降りた先は駅のホームではなく家の近所の公園で、公園内は親子連れがちらほらといる。

急に長閑な風景が目に入ってきて、さっきまでの出来事を咀嚼できないまま、ふらふらと夢遊病者のような足取りで家に帰っていった。

家に帰り、ソファに座って何をするでもなくぼんやりとしていると、父から電話がかかってきた。

慌てたような声で話す父の言葉を要約すると、どうやら10年以上行方不明だった親類が、つい先ほど遺体となって発見されたらしい。

ふと、「遠縁の女性が、事件・事故に巻き込まれたか、それとも家出なのか、神隠しのように急に姿が消えた」ということを随分前に聞いたなということを思い出した。

そこから芋づる式に、そういえば行方不明になった遠縁の女性の顔を写真で見たことがあったこと、遠縁の女性とあの時の老婆の顔が似ていることまで思い出してしまった。

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コメント(1)
  • 怖かったです。
    下車ができて良かったです。

    2024/04/21/16:47

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