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不思議体験

シンディさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

予定を勝手に決めないで
短編 2022/04/30 21:18 1,213view

僕の会社では社内共有用のスケジュールアプリに各々の予定を書き込む事になっている。

カレンダーのように表示されるマス目へ「鈴木、昼より新潟へ出張」「高橋、14時からX社を訪問」といった具合に記入していくのだ。

中には「中野、お昼にランチ会を企画しています!集まれる方は中野まで」といった業務とは関係ないものもあるが、ゆるふわ社員の中野さんなら仕方がないか、と僕達男性社員は諦めている。

ちょうど昼時なので中野さんは楽しくランチをしている頃だろう。

僕はコンビニのサンドイッチ片手に、同僚の高橋君へX社の訪問の件で相談したい事があったのでスケジュールを確認しようとした。

そうして13時の項目を見て、首を傾げる。

「中野、ランチからの帰り道に交通事故に遭い死亡」――随分とタチの悪いイタズラだな、と僕は思った。

彼女の振る舞いが気に食わないなら面と向かって言えばいいのに。

職場内に荒波が立つのも嫌だったので、僕はその不吉な予定の項目を削除しようとした。

だが、タッチボタンが反応しない。何度押してもその項目は消えなかった。

操作方法のヘルプを見ようと僕は画面を切り替えた。

「鈴木、出張の列車の横転事故により死亡」の文字が目に入る。

誰だ、と僕は思わず悪態を吐いた。

やっていい事と悪い事がある。こんな非常識な人間が社内にいるとは思わなかった。

すると、会社の電話が鳴った。努めて冷静な声で「はい、U商事です」と電話に出ると、すすり泣く女性の声がした。

「どうしましたか」

「U商事の……三坂です」

 中野さんと仲の良い女子社員の三坂さんだった。何があったの、と尋ねると、彼女はしゃっくりを上げながらこう言った。

「今、ランチの帰り道だったんです……そしたら、車が急に突っ込んできて……中野さんが、中野さんが巻き添えに……私、どうしたらいいんでしょう」

 僕は唖然とした。まさか、この悪質なイタズラの書き込みが、現実になるというのか? 泣きじゃくる三坂さんを宥めながら、現場に救急車と警察が到着したのを聞き届けると、僕は受話器を置いた。

スマホでネットニュースを確認すると「前代未聞!?新潟行き特急列車の横転事故発生!現場から中継リポート」の文字を見つけてしまった。

僕はスケジュールアプリをもう一度確認した。

「斎藤、残業中に心臓発作により死亡」――勝手に僕の予定を決めないでくれ。机を拳で叩いて、僕はそう叫んでいた。

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