午前零時のブロマイド
投稿者:シンディ (8)
その夜、満開の桜がずらりと並ぶ大通りを私は走っていた。
親や友達に言ったら絶対バカにされると思うけど、私はアイドルキャラクターのブロマイドを印刷するためにコンビニへ向かって全力疾走していた。
二十種類のキャラがランダムで印刷されるせいで、私はまだ肝心の推しのブロマイドを手に入れていない。
それなのにSNSで「このブロマイドは本日二十三時五十九分までの販売となります」という公式の告知にたったさっきようやく気付いたのだ。
私は考えるより先に財布を引っ掴んで家を飛び出していた。
息を切らせてコンビニへ入店すると、のんきな音楽と店内放送が出迎えてくれた。
時計を見ると二十三時五十六分だった。財布の中身を確認すると、千円札が二枚と小銭が六九〇円。ブロマイドの印刷には時間が掛かるから、お金の事は考えずにまとめて注文した方がいいだろう。
ラストチャンスだし、と思って私は店の奥から出てきた店員に「印刷機を使うので両替お願いします」と二千円を渡した。
急いでいるせいか、店員の動きがメチャクチャ遅く感じてイライラする。ようやく五百円玉を四枚出した店員がぼそりと言った。
「今日までのブロマイドっすか?」
オタバレするのは嫌だったけどごまかしを考える時間も惜しかったので、はい、と私は頷いた。
「零時の瞬間って、データが切り替わる関係でエラー吐きやすいので……なんかあったら呼んでください」
思い返せば、この時彼は本当に親切で言ってくれていたのかもしれない。
私は「ありがとうございます」と礼を言って印刷機に有り金を突っ込んだ。
目当てのアニメアイコンをタッチして、プリント枚数を十三枚に指定すると、印刷機のプリントが始まった。
目当てのキャラクターが出てこないか、一枚ずつ印刷される度に確認する。
すると、十六枚目でずっと求めていたキャラクターのブロマイドが出てきた。やった、と私は小さくガッツポーズをした。
すると、一度印刷機が静かになった。時計を見ると丁度零時になっていた。
やっぱり不具合が起きたのかな、と思って店員を呼ぼうか迷っていると、また印刷機が稼働して一枚のブロマイドが出てきた。
それを手に取った瞬間、私は息を呑んだ。映っているのは、私だった。桜並木の夜道で、血塗れになって倒れている私だ。
ブロマイドの私は今の私と同じ服装だった。これから帰り道にこうなるとでもいうのだろうか。
どうしてこんなものが。私が震えていると、店員が近づいてきた。
私が手にしているブロマイドを見て、彼は「ああ、また出ちゃったのか」と呟いた。
コエーよこの話!!