口の中の秘密
投稿者:淹 (1)
手をしきりに握ったりこすり合わせたりしながら、目はずっと私の顔の一部を凝視しているんです。そわそわと落ち着かない態度と遠慮のない視線に、私はどんどんと居心地が悪くなってきて、もう帰って良いかそう告げようとした時でした。
Aちゃんが唐突に私に言ってきたんです。「口の中を見ていたの」って。
どういうこと?と問いかけたんですが、Aちゃんは答えなかったし、私もなんだか怖くなって逃げるようにして家へ帰りました。
何と言ってAちゃんのもとから逃げ帰ったのか、今記憶をさかのぼっても思い出せません。
帰ってからのことは何も覚えていませんし、同じクラスだったAちゃんとの学校生活をその後どうやって送っていたのかも記憶にないのですが、しばらくしてAちゃんは転校してしまいました。
両親の都合での転校などではなく、院内学級に転校したそうです。
クラスでは交通事故に遭ったとか、大病を患って登校ができないとか、それはもう様々な噂が立ちました。
一部の生徒はAちゃんに会いたいと先生に連絡先を聞いたそうですが、先生は教えてはくれませんでした。会えない状況なんだと、ただそれだけしか。
みんな噂好きだったので、一時期はAちゃんの転校理由に色んな尾ひれをくっつけて面白がっていたけれど、いつの日かその話題も消失していきました
話題にならなくなったあとでも、私はずっとAちゃんが言った「口の中」の話が心にひっかかっていました。
きっとAちゃんが見たあのショッピングモールの横断歩道に立っている人は”この世のものではない人”だったんだと思います。
その人の何かを見てAちゃんは入院することになってしまったのではないかと。
けれど私はそのショッピングモールを確認しに行く勇気もありませんでしたし、Aちゃんとなんとか連絡を取ろうとも思えませんでした。
とにかく忘れてしまいたかったんです。
あの日の放課後、私に向けられた穴が開いてしまいそうな強烈な視線と、手のひらをこすり合わせるあの音と姿が恐ろしくてたまらなかったんです。
Aちゃんがいなくなって1年ほどはその話を忘れたふりをして毎日を過ごしていましたが、
大体1年くらい経ってからだったと思います。友達との会話で、学校帰りにショッピングモールに買い物に行こうという話が出ました。
正直、行きたくはありませんでした。
しかし、私が住んでいた街のショッピングモールといえばそこくらいしかなく、隣町に行こうと思えば車がないとなかなか難しい立地でした。
私は渋々承諾して、放課後にそのショッピングモールへと向かいました。
ショッピングモールの入り口は2カ所ほどあって、その2か所ともに大きな横断歩道がありました。Aちゃんが一体どっちの横断歩道の話をしていたのかはわからなかったのですが、でも瞬間的にわかってしまったんです。
まだ遠い距離にいるのに、あの人だって。
確かにその人は立っていました、横断歩道の前に。ですが、Aちゃんが口の中を見てしまったあの日のように、横断歩道に背を向けて立っていました。
私の頭の中では「絶対にその人を見るな!」って警告音が鳴り響いていました。
確かに私の耳には人や車が行きかう喧騒音が聞こえていたはずなのに、それらはぴたりと凪いでいって、変わりに自分の心臓の音が警告音として跳ね上がっていたのです。
それなのに、どうして。なぜか吸い寄せられるように、視線がその人のもとへと向かってしまっていました。
怖いもの見たさの好奇心だけでは説明できない不思議な引力が働いて、私はその人へと視線が釘付けになってしまいました。
顔の表情が肉眼で確認できるくらいの距離に近づいたとき、私にも見えてしまいました。ぽかんと開いた大きな口が。
私がずっと気になっていた、口の中。
Aちゃんが言っていたこの世のものではない人の見分け方。
なにこれめっちゃ怖い
鳥肌
ほん怖とかで実写化してほしい
面白かった
よくある小説みたいな怖い話じゃなくて新鮮でした
すばらしい!
こう言ってしまうと失礼かもしれないけど、少し素人っぽい文章がリアルで怖かった。
良ホラー
久々にしっかり怖い話を読んだ気がします
3番目の方のコメントの
>よくある小説みたいな怖い話じゃなくて新鮮でした
これめっちゃわかります
こっわ
絵が浮かんでくる
ショッピングモールいきずらい・・・・
ためはち
素晴らしい話でした!!
Aちゃんはどうなったんだろう?
はにわだな。いや、ありゃあ目も黒いか。