口の中の秘密
投稿者:淹 (1)
確かにそこに立っている人は、生きている人間なんかじゃありませんでした。
姿かたちは人間だけれど、確実に人間じゃない。それは確かに、口の中に秘密がありました。
その人の口の中、何にもなかったんです。
本当に、なにも。
開いた口の中は真っ黒で、でも絵具で塗りつぶしたようなそんな黒じゃない。
その先があるはずなのに何も見えないんです。果てのない黒が、その人の口の中でずっとずっと続いているんです。
もしも目が合ってしまったら、そのまま吸い込まれてしまいそうなほど。
私ははっと我に返ると、ぎゅっと目を瞑って足早にその場を通り過ぎました。
通り過ぎたと同時に、周りの喧騒音がようやく耳に飛び込んできました。
友達は何も気づいていないのか、私の横で楽しそうにおしゃべりをしていて、その声を聴いて初めて現実に戻ってきた感覚を取り戻しました。心底ほっとしたのを覚えています。
固く閉ざしていた目を開くと、もう目の前に黒はなく、いつも通りの景色が広がっていました。でもすぐに「ああ、まだだ」と思いました。
私はその日、ずっと後ろを振り向けませんでした。
いるんです。ずっと、後ろにいるんです。手をこすり合わせる音がずっと耳に響くんです。
その後私は精神的におかしくなるでもなく、もう成人して大人になってしまったけれど、いまだにときどき、あの日みた口の中を思い出すことがあります。
そしてあの日以降、私にはこの世のものではない人がたまに見えるようになってしまいました。
普段生活する中でもときどきいるんです。
道路のすみっことか、公共施設のトイレとか、本当にいたるところに。口をぽかんと開けた人。
Aちゃんはきっと、あの真っ黒の口の中に吸い込まれたんだと思います。
吸い込まれるようにして、その人に近づいてしまったんだと思います。
そしてきっと、あの真っ黒の口の中の先には……
「ちゃんと赤いよね?」
あの言葉は私の口に対してなのか、Aちゃんの口に対してなのかいまだにわかりませんが、それでも「ちゃんと赤いよ」と言ってあげていたら、もしかしたらまた何か違ったのかもしれないといまだに後悔しています。
Aちゃんがいまどこにいて何をしているのか、それはもう一生分からないですが、彼女はもうこの世にはいないのかもしれません。
どこかで元気でいてくれればと願ってはいられないのですが、“あの音”は彼女のものだったのではないかと疑っている自分がいます。
そして私は、あの時目を瞑ることができて良かったって心底思います。
あのまま黒に吸い込まれていれば、私はきっと横断歩道に飛び出して、死んでいたと思いますから。
なにこれめっちゃ怖い
鳥肌
ほん怖とかで実写化してほしい
面白かった
よくある小説みたいな怖い話じゃなくて新鮮でした
すばらしい!
こう言ってしまうと失礼かもしれないけど、少し素人っぽい文章がリアルで怖かった。
良ホラー
久々にしっかり怖い話を読んだ気がします
3番目の方のコメントの
>よくある小説みたいな怖い話じゃなくて新鮮でした
これめっちゃわかります
こっわ
絵が浮かんでくる
ショッピングモールいきずらい・・・・
ためはち
素晴らしい話でした!!
Aちゃんはどうなったんだろう?
はにわだな。いや、ありゃあ目も黒いか。