真っ黒な訪問者
投稿者:ぞざい (8)
私が以前住んでいたマンションで、決まって15時に訪れる者がいた。しかも、私が仕事でいない平日に決まって、一度だけインターホンを押す。その記録だけが、我が家のカメラ付きインターホンに残っていた。
しかし、それがどのような者なのかは全く分からない。強いて言うなら、「真っ黒」だろうか。なぜか、15時に決まって訪れるそれは、モニターをまるで真っ黒な画用紙かのように染めるのだ。
カメラか、モニターのどちらかの故障かと考えたこともあったが、宅配便の人はしっかりとその姿が映し出されていた。私は少し興味が湧いた。一体、この者は何者なのか。
真っ黒な訪問者が訪れるようになって2週間ほど、私は有給を取り平日にその者を迎え入れる準備をした。
その時はやってきた。15時になり、インターホンが確かに鳴った。モニターはいつものごとく画面が真っ黒。モニターで応答することも考えたが、我が家の玄関扉には覗き穴がついているので、そちらからそっと覗いて、その者の姿を捉えることにした。
留守を装うため、そっと、足音を立てずに扉に向かい、覗き穴を覗く。
「あっ」
声が出てしまった。
モニターの前には確かに男がいた。その男は、これでもかというくらいインターホンのカメラに顔をぐっと近づけ、いや押し付け、じっとしていた。
その異様な姿に、恐怖心が舞い上がった。その恐怖心のあまり、私は動くことができず、覗き穴からその恐ろしい訪問者を見つめ続けていた。
すると、男はこちらに気がついたのか、すっとカメラから顔を上げ、こちらを見た。目があった。顔はこけてシワが多く、おまけに目はギョロッとしており、血色の悪い色をした顔。行動だけでなく、その見た目にも私は戦慄した。
男が、覗き穴の方へ歩み寄った。
「来るな!」
私は思わず叫んだ。しかし男はそれを無視し、私と同じように覗き穴を覗こうとする姿勢に。
私は反射的に扉から離れ、部屋の中に逃げ込んだ。
ドンドンと、扉を叩く音。そしてガチャガチャとドアノブを閉じ込められた者かのように必死に回す音。あいつだ、あの男がやっている。私の恐怖心は頂点に達した。しかし、惨めなことに何もできない私は、ただ部屋の中で布団にくるまって怯えることしかできなかった。
そうだ警察を呼べばいいのかと気がついた時、それを察したかのように全ての音が止んだ。
あいつが居なくなったのだ。一つの安心感に駆られながら、私は玄関扉に向かう。そして、覗き穴を覗く。
覗き穴は真っ黒だった。
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