変わる
投稿者:ぞざい (8)
私の家、特に私の部屋は不思議であった。
入る度に、その部屋の、室内の全てが変わるのだ。家はボロボロの築30年くらいの中古物件。私には兄が一人いて、2階の一室を兄弟仲良く自分の部屋として使っていたのだが、いつからだっただろう、部屋に入ると、室内がガラッと変わってしまうようになった。
訳が分からなかった。
いつもは扉を開けて正面に二つの勉強机、また窓があり、左手には教科書などの本棚、右手には押し入れがある。なのに私が入ると勉強机は無くなり、また窓の位置は右手、押し入れは無くなってしまっていた。代わりにそこにクローゼットがある。初めてこの体験をした時は何か夢でも見ているのか、はたまた疲れているのかと思ったりもしたが、一度や二度ではなく何度も繰り返しその現象は起こった。その度に、私は部屋に怖くて部屋に入れなくなった。もちろん兄にも話したが、兄は「そんな経験ない」と言って、私を馬鹿にしてきた。試しに何度も兄を連れて一緒に部屋に入ったが、なぜだか間取りが変わることは無かった。母にも話した。しかし反応は同じだった。小学生だった私に、「大人を揶揄うな」とひどく怒った。
しかし、父だけは違った。父が言うには、この家が建つ前にあった家の部屋なのではと。前の家には、女性が1人住んでいたそうなのだが、ある日その家が火事になり、残念ながら亡くなってしまったらしい。「ありえないことだけど、可能性はあるかもしれないね」と父は言ってくれた。
それから、景色が変わる部屋についてとても気になり始めた私は、怖々その部屋に居続けてみることにした。もし、亡くなった女性がその部屋に入ってくるなんてことがあったら、30年前にタイムトラベルしているような気がして、楽しいかもしれないと思ったからだ。
とある冬のとても寒い日だったと思うが、私は自分の部屋の様子が変わったことを確認して、その部屋に入り居座った。特に何も起きない。誰も来ない。どうしようかと思っていた矢先、ドアが開いた。女性が立っていた。髪の長く細身の女で、その顔はどうも暗く青白い雰囲気だった。びっくりしてうわっと声を出したが、その女性に反応はない。目も合わない。私のことは見えていないのか?フラフラと部屋に入ってくる女性。左手にはマッチ、右手には大きなガソリンタンクを持っていた。小学生の私でも分かった。この人は今から自殺しようとしている。父が教えてくれた話では火事だったが、真相は……。私は心の底から来る恐怖と焦りに身を震わせながら、部屋を出ようとした。しかしなぜか部屋の扉が開かない。まずい、このままでは女性と共に焼け死んでしまう。私が扉をこじ開けようとしている間に、女性は黙々とガソリンを部屋に撒き散らし、マッチに火をつけようとしていた。
「やめて!出して!」
私が叫んでいると、見えていないはずの私を女性が睨みつけている。
「逃がさない」
女性とは思えないような低い声でボソッと呟き、躊躇いなくマッチに火をつけドブに捨てるかのようにそれを地面に落とした。瞬く間に炎が部屋中に広がった。熱い、苦しい。死にそうだ。女性が炎の中心で立ったまま、私を見つめている表情は笑顔だった。
目が覚めると、私は自分の部屋にいた。勉強机、押し入れがある。間違いなく私と兄との部屋だった。長いこと夢を見ていたのかも知れない。室内が変わり始めたことが夢の始まりだったのかも知れない。そう思ってボーッとしていると、下の部屋から「ご飯よ、早く降りて来なさい」と声がした。
返事をし、リビングに向かうと、そこには全く知らない家庭が、いた。
「こら、早く食べなさい」
「冷めるでしょ」
と私を見て口々に言うその人たちを、私は知らない。
知らない、人たちなのだ。
私の家族はどこに行ってしまったのか?何も言えず立ち尽くしていると、母親のように見える女性がこちらを向いた。
その顔は……あの女性に瓜二つだった。
「どうしたの」
と、その女性はこちらを見つめて言う。
あの炎の中で見せた笑顔を貼り付けて。
元に戻れたのでしょうか…?
それで、気になります。