船型の箱と代償
投稿者:林 (4)
その音のあとから兄弟の部屋のドアがバタバタと開く音が続いた。
「何の音だ?」「どこからだ?」と長男と次男の声が聞こえ、祖父も扉を開けた。
すると、二人がすぐ上のお兄さんの部屋の前で立ち止まっていた。
「兄さんどうかしたの?」
「……廊下が汚れてる」
廊下は針で引っ掻いたような傷と共に水浸しの雑巾をかけたような汚れ方をしていた。
兄二人がよく見ようと近付いたところで、母がやって来た。
「それに触ってはいけません。あとは私がやりますから部屋に戻りなさい」
「母様、先ほどの音はなんですか?」
「神棚が落ちました。早く部屋に戻りなさい。あと必ず鍵をかけるように」
「どうしてですか?」
「いいから言うことを聞きなさい!」
温厚でほとんど怒ることがなかったらしい祖父の母が強く言いつけたことに兄弟達は驚きながら、祖父は部屋に戻り、鍵をかけた。
すぐ上の兄はこの騒ぎにも気付かなかったらしく、起きて来なかったために祖父の母が外から鍵をかけたそうだ。
それから特に音も聴こえず、祖父は眠ってしまった。
そして翌日のことだった。
祖父はすぐ上のお兄さんに昨晩の話をした。それから、もう一度、蔵に入って壊した箱を入れた木箱を確かめようかと話していると、玄関の方で騒いでいる声がした。
二人は連立って行くと、母と叔母達が取り乱した様子で話をしていた。
この時、祖父はまだ小学生だったので話の内容はよくわからなかったそうだ。
実は、一族の男達を乗せた船が転覆し、乗組員全員が亡くなってしまったのだ。
そこからは怒涛の勢いですべてが変わってしまった。
会社の経営陣がいっぺんにいなくなり、残された女子どもだけではどうすることもできず、祖父の家は没落。
家の物すべてが人手に渡り、出て行かなければいけなくなってしまった。
そしていよいよ明日、出て行くという夜に蔵が燃えてしまった。
幸い家に燃え移ることはなかったが、蔵は全焼。
しかし、火元がどこからなのかわからず、放火の可能性も示唆されたが、結局うやむやになってしまったそうだ。
そして、不思議なことにその火事のあとから、兄弟にあった障害がすべてなくなってしまったのだ。
兄弟達はみな喜んでいたが、祖父とすぐ上のお兄さんはあまり喜べなかったそうだ。
蔵にあった船型の箱が燃えたからだろうと知っていたからだ。
さらに、これは本当はよくないことではないだろうかとも考えていた。
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