深く暗い海の底へ
投稿者:すもも (10)
私が一人佇んで海を眺めていると、AちゃんとBちゃんが声を掛けてくれました。
彼女達とは小三からの付き合いでOちゃんとも遊び仲間です。
なので、Oちゃんを大親友とするなら、彼女達とは親友になるでしょうか。
当然、Oちゃんの葬儀にも出席しているので、私が海をトラウマとしているのも承知済みです。
海を見れば嫌でもOちゃんの事を思い出して悲しくなる。
でも、それだけじゃ私は成長できないし、何よりOちゃんに失礼だと頭の端では理解してても難しいのです。
だから彼女達の気遣いが嬉しく、私も勇気を振り絞って誘いを受け入れました。
私は、爪先から慎重に入ろうとしたのですが、波が足首まで押し寄せてきて、冷たい感触が迸ります。
「結構、冷たいね」
久しぶりの海の感想はそれだけでした。
でも、下半身だけですが海に対して意外と嫌悪感もなく、AちゃんBちゃんと一緒に波打ち際で水遊びするのは楽しく思えました。
それから数刻後、だいぶ海に慣れた私は、胸の辺りまで浸かる少し離れた場所で簡単な素潜りをして海中を散策していました。
水面を見上げれば他の生徒達の輪郭や滲んだような大陽が見える程度には透き通っており、海底を見下ろせばほの暗い砂場が奥へ続いているのが見え、神秘的な景色の中に闇を孕むような畏怖を覚えたのです。
息継ぎのために地面を蹴りあげ水上へ飛び出ようとしたときでした。
右足が突っ張ったような感覚を覚え、視界がガクッと下がったのです。
妙な感覚に振り返ってみれば、さっきまでは無かった海藻が足首に巻きついていて、どうやらそれが私の浮上を食い止めていた原因のようでした。
私は、すぐに海藻を取り除こうと手で毟るのですが、何だか手触りと言うか、触覚に違和感があり、うまく掴めません。
「ん、んー!」
焦りと力みで息が苦しくなり、手際も雑になり始め、何度も足首を強引に引き抜こうとするものの、まったく外れる様子がないのです。
私は頭上で手をばたつかせます。
水面でバシャバシャと手で水を叩いていれば、何れ誰かが気づいて助けに来てくれると考えました。
しかし、息も体力も限界が近く、あまりの息苦しさで意識が遠退いていくのがわかります。
そんな時、ふと足首を見れば、二本の白く細い腕が、まるで私の足首に巻き付く海藻から引き離そうとグイグイ引っ張っていました。
荒唐無稽な現象を眼前に呆けていると、拙い腕力で足が引っ張られ、次第に海藻に弛みが生じて私の体がふわりと浮上を始めます。
ただ、そこで私の息の限界が向かえたらしく、視界がサーッと白く染まっていくのでした。
次に目を覚ますと、私は水着のままどこかの寝台に横になっていて、体にはタオルケットがかけられていました。
横を見れば、AちゃんBちゃんが看病していてくれたのか、私が目を覚ますなり「私ちゃん!」と笑顔を咲かせるのでした。
それから私は自分に何が起きたのか二人に訊ねました。
何でも、三人で遊んでいる最中に急に私の姿が見えなくなったことで、しばらくはAちゃんBちゃんの二人で私を探していたそうです。
しかし、数十分探しても見つからないので先生に報告し、数名の先生と共に念のため沖合い付近まで捜索に出たところ、小学生でも足が着く岩場近くの浅瀬で私が浮いているのを発見し、救助されたというわけです。
子供の純粋さが恐ろしい未練のようなものになってしまうのかな
ほっこり話だと思ったら、後半めっちゃ怖かった
めっちゃ怖くて読み応えあった。
ていうか作者さん中3!?