繰り返す呪いと捏造
投稿者:A123 (3)
中学時代、私は転校生のK子を執拗にいじめていた。
トイレの個室に逃げ込んだK子にバケツの汚水をかけたり無理矢理虫を食べさせたり、いじめは日に日にエスカレートしていった。
ある日K子が当時住んでいた団地の屋上から飛び下りた。葬式にはクラス全員が出席したものの、いじめの主犯である私はどうにも居心地が悪く顔を上げられないでいた。
担任や周囲の大人の目に隠れていじめていたからバレてないと信じたいが、断言はできない。もしK子が遺書や日記を遺していたら逮捕されるかもしれない。
などと怯えていた矢先、喪服を着たK子の母親が憔悴しきった面持ちで近付いてきた。K子は母子家庭で団地に越してきたのも離婚が原因と聞かされている。母1人子1人で貧しいながらも支え合ってきたのだろうと思うと、初めて罪悪感が湧いてきた。
「K子と仲良くしてくれてありがとうね。一番の親友だったんでしょ?」
「え……」
「あの子の日記に書いてあったの。形見としてもらってやってくれる?」
K子の母親に手渡された日記を帰宅後に読んでみると、そこにはK子の痛ましい妄想が綴られていた。
K子は母親を心配させないために家で人気者を演じ、一番の親友として私を紹介していたのである。
そのうち妄想と現実の境目が付かなくなり……あるいは妄想を捏造で補強するため、日記にまでも私と何をして遊んだ、どんな話をしたと実際には存在しないエピソードを綴りだしたというのが真相だった。
最後のページの日付はK子が飛び下りた日だ。彼女は死ぬ直前まで日記を付けていたのである。
『まだ遊び足りないな』
K子の妄想日記はそう結ばれていた。私は言葉にできない恐怖と嫌悪に襲われ、K子の形見の日記をゴミ箱に叩き込んだ。
二十年後、私は結婚して娘が生まれる。娘はとても可愛く愛おしかったが、幼稚園に上がる頃から娘に異常行動がではじめた。カマキリやバッタなど、虫を捕まえておいしいおいしいと食べるようになったのだ。
小学校に進むとさらにエスカレートし、周囲の子どもや保護者、担任までもが娘を気味悪がって避けるようになった。
娘の奇行のせいで夫と喧嘩が絶えなくなり離婚、母子で古い団地に越してくる。
皮肉なことに、それはK子と母親が住んでいたあの団地だった。
ある時娘の手を引いて歩いているとすっかり老け込んだK子の母親とすれ違った。
しばらく立ち話していたが、彼女はずっと黙り込んでいる娘に目をとめて微笑んだ。
「まあ、K子にそっくり」
何を言われたのか。上機嫌に去っていく母親に娘は小さく手を振っていた。
その時、ある可能性が脳裏にひらめいた。もしあの日記が娘の受けた仕打ちを全部知った上でK子の母親が捏造したものだったなら……K子の母親の呪いで娘はおかしくなってしまったのでは?あるいは本当にK子の生まれ変わりだったのなら……。
真実を確かめる術はない。現在、娘は学校でいじめられている。主犯は同級生の意地悪な女子だ。私は娘の字に似せて日記を書いている。
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