異次元エレベーター
投稿者:だれパンダ (31)
これは私がある古い病院で体験した出来事です。
当時私は盲腸で市内の病院に入院していましたが、そこは昼でも何故か薄暗く気味悪い場所でした。その病院には異次元エレベーターの噂が伝わっており、病院内のエレベーターのどれかが異次元に繋がっているというのです。
怪談や都市伝説を真っ向から馬鹿にしていた私はもちろんそんな事を信じなかったのですが……
無事に手術を終えて退院が近付いたある夜、急に寝苦しさを覚えて目が覚めました。
消灯時間は過ぎていたものの強烈に喉が渇き、自動販売機で飲み物を買おうと思い立ちました。しかし私が飲みたい銘柄の缶コーヒーがちょうど売り切れで、仕方なくエレベーターに乗り込み、下階に向かいました。
目的の階数のボタンを押してしばらくすると、チン、と澄んだ音が響いて扉が開きました。その先の光景を目の当たりにして、思わず叫んでしまいました。
「えっ?」
エレベーターの扉の向こうに広がっていたのは産婦人科のフロアでした。夜なので当然真っ暗闇に包まれていますが、おぎゃあおぎゃあと赤ん坊の泣き声が響いてきます。
しかしこの病院に産婦人科は存在しないはずでした。
一体何故存在しない産婦人科に辿り着いたのか、パニックに陥って「閉」のボタンを押すとすぐドアが閉まり、エレベーターが勝手に下降を始めました。次に開いたドアの向こうは小児科でした。
「一体どうなってるんだ!?」
実際の小児科フロアとは階数と内装が異なっており、わけがわからず混乱しました。すると今度はボタンを押してないにもかかわらず扉が閉まり、エレベーターが深く深く下りていきます。
一体自分はどうなってしまうのか、行き先は地獄じゃないのか……恐ろしい妄想に震えていると、チン、と鈴の音が響いて緩慢に扉が開いていきます。
そこは真っ暗闇に閉ざされた霊安室のフロアで、目の前には白い布をかけられた青い入院着の遺体が仰向けていました。
どうしても遺体の顔を見たくなって注意深く一歩を踏み出し、布の端をめくりました。
「うわあああああああ!」
霊安室に横たわっていたのは年老いて痩せさらばえた私自身でした。圧倒的な戦慄に襲われてエレベーターに逃げ帰ると今度は上昇を始め、小児科と産婦人科に止まらず元の階に着きました。
一体あれは何だったのでしょうか?今考えてもわかりませんが……俗に人の一生をたとえ、ゆりかごから墓場までとも言います。大勢の人間が産声を上げ、そして亡くなる病院では、ともすると次元が歪み自分の一生を追体験する事もないとは言いきれません。
退院後に古いアルバムを開いて確かめたところ、あの産婦人科の様子は私が生まれた病院にそっくりで、小児科の方ははしかにかかった時にお世話になった近所の診療所だと判明しました。後者の診療所は十年前に潰れており、もうこの世のどこにも存在しません。
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。