反魂の儀式と生爪
投稿者:誠二 (20)
それはBが幼い頃祖母から教わった禁断の儀式であり、彼の家は代々人を呪って生計を立てきたそうです。
しかし現在の当主である父親には能力が遺伝せず、祖母が後継ぎと見込んだBは帰らぬ人となりました。
「俺とBは遠い親類なんだ。薄くても血が繋がってんなら、この儀式も成功するかもしれない」
呪いのやり方は簡単で、生前の故人を一番大事に思っている人間が、故人の死体から剥いだ爪を飲み込むというものでした。
ただ見守るしかない俺の眼前で、Aは血の跡も生々しいBの爪をごくりと嚥下しました。
しかしその場では何も起こらず、やっぱりでまかせだったのかと二人して落胆しました。
そして夜が訪れ、俺は蚊帳を吊った和室に敷いた布団にもぐりこんだものの、なかなか寝付けずにいました。
もし呪いの儀式が成功し、Bの継母になったらAが罪に問われてしまうのではないか。
友人として止めるべきだったのではないか。
後悔と葛藤がぐるぐる脳裏を回り、遂に耐え切れず布団を剥ぎ、サンダルを突っかけて駆け出しました。
今からでも遅くない、Aを説得してBの身に起きた出来事を大人たちに伝えようと思ったのですが……夜の田舎道を走っている時、ぞくりと悪寒が駆け抜けました。
「えっ?」
反射的に振り向いた先にはBの屋敷があり、母屋の方から凄まじい絶叫が響いてきました。
まさかと思って塀を乗り越え、庭先を横切って母屋に走った俺が目の当たりにしたのは、髪の毛を振り乱して喚き散らす女の人……おそらくBの継母です。幸か不幸かBの父親は仕事で不在みたいでした。
「な、なんで帰ってくるのよ!あんたは死んだはずじゃない!」
女の人の正面に立っているのはパジャマ姿のAですが、その目は虚ろでどこも見ておらず、全身から異様な雰囲気が漂っていました。さらに奇妙な事にAの足は泥だらけで、自分のうちから裸足で歩いてきたように見受けられました。
俺の目には夢遊病のAにしか見えないのに、継母の目には違うものが映っているらしく、彼女はヒステリックに泣き叫んで命乞いをしています。
「お願い許してごめんなさい、だってアンタ薄気味悪くて……あの人は世間体があるから施設に預けるのはやだっていうし、だったら自分から出てくように仕向けるしかないじゃないの!」
次の瞬間、継母がAとBを取り違えて暴言を浴びせたのだと理解し、激しい怒りを覚えました。とはいえ様子のおかしいAを放っておくわけにもいかず、土足で縁側に上がり彼を取り押さえにかかります。
「しっかりしろA!」
「俺は……僕は……おかあああさああああああああんんん」
どうにかAを捕まえるのに成功したものの、彼の喉から放たれたのは声変わり前の少年のもの……俺のよく知る、Bのボーイソプラノでした。
直後にAは苦しげにえずいて嘔吐し、縁側の床の上に胃の中身がぶちまけられました。
「きゃああああああっ!」
継母が白目を剥いて叫んだのは、Aの吐瀉物の中にBの爪が入っていたからに他なりません。爪を吐きだしたAはぐったりし、俺は発狂した継母をBの家に残し、祖父母や近所の大人たちに事件を知らせて回りました。
そこからの展開はめまぐるしく、継母はBを虐待した事実を認めて警察に出頭し、息子を見殺しにした父親も大いに責められて職を追われたそうです。
夏休み最終日、俺とAはBが眠る墓に爪を手向けて合掌しました。
はたして俺が見たものは何だったのでしょうか。本当にBがAの体を借りて甦ったのでしょうか……。
なんかエグい
すごく面白かったです
うまい~