山道に捨てられた靴の呪い
投稿者:茉桜 (2)
これは今から6年前、大学1年生の夏休みに、私が実際に体験したお話です。
前期のテストを終え、やっと待ちに待った夏休みがやってきました。私は当時、大学3年生の同じ学部の先輩と付き合っており、彼との夏休みの旅行を計画していました。バイトを頑張ってお金を貯め、ついに旅行当日。1日目は福岡県を観光しました。もつ鍋を食べ、お腹いっぱいで夜の街を散歩しました。彼氏との初めての旅行に胸を踊らせ、幸せでいっぱいでした。この時は次の日にあんなことになるなんて、思いもしませんでした。
2日目の朝は山口県へ向かい、下関でおいしいお寿司をたらふく食べました。海辺に座ってお寿司を食べるなんて初めての体験、昨日に引き続き幸せいっぱいの時間を過ごしました。たくさん写真を撮って、はしゃぎました。そろそろ出発しようかとなり、島根県に向けて車を走らせました。
次の私たちの目的地は出雲大社でした。縁結びの神様として知られる出雲大社に行って、彼氏とお願いごとをするのを楽しみにしていました。
島根県に入って、高速道路を降り、一般道を走り始めると、カーブの多い山道が待っていました。いつも通り車の中で2人で楽しくお話していると、彼氏が突然言いました。
『今、俺の欲しかった靴が落ちとった!』と。
家も建物も何もない山道でそんなことをいきなり言われても、信じることができず、気のせいじゃない?と私は軽く流しました。
私は助手席の窓から外を見ていたので靴が落ちていることには気付きませんでした。
どうしてもその靴を拾いに行きたいと彼は言い続けました。しかし、山に落ちている靴なんて気持ちが悪すぎて私は絶対に関わりたくなかったので否定し続けました。
私の思いは彼には伝わらず、結局彼のしつこさに負けて、Uターンして靴を拾いに戻ることになりました。
乗り気じゃない私と、欲しい靴がゲットできるためウキウキな彼。今思うと、山に落ちている靴が欲しいとあんなに言い張るなんて、ちょっとおかしいと思います。
誰だってそんな靴払いたくもないし、気持ち悪がると思いませんか?
あの時の彼は何かに導かれていたのだと思います。
しばらく車を走らせると道端にその靴は確かに落ちていました。しかし真横は山です。かなり山奥の道でしたし、近くを人が歩くような場所でもありません。
山に向かって捨てられた靴。私はやっぱり気持ち悪いから拾うのはやめようといいました。
しかし彼は車から降りて、靴のところまで歩いて行ってしまいました。
戻ってきた彼は手に靴を持っていました。
嫌がる私の意見なんか聞く耳も持たず、車にその靴を積んで、出雲大社に向けて出発しました。
もう拾ってしまったし、仕方がないので、私も諦めました。
その後、山道をしばらく走っていると、カーブに差し掛かった時、車の向きがいきなり変わりました。いきなりスリップしたのです。一瞬の出来事でした。
やばい、と思った次の瞬間、私の目に飛び込んできたのは粉々に割れた車のフロントガラス、飛び出たエアバッグでした。
何が起こったのか全くわからなくて、自分の足に付いた血もどこから出た血なのか分からなくて、ただ呆然としていました。頭の中はパニックだったと思います。
彼は自分で車から出て、道に倒れ込みました。私は自力で車のドアを開けることができず、車内に閉じ込められました。
周りから、オイルが漏れているぞ、と声が聞こえ、私は燃えて死んでしまうのかなと怖くなりました。
知らない人たちが、もうすぐ出してあげるから、とずっと私を励まし続けてくれる声が聞こえていました。
しばらくすると警察や救急車が到着したようで、私は後部座席のドアから引っ張り出されました。
現場の声から、私が1番重症なのだと悟りました。あまりの苦しさにもう死ぬのだろうと覚悟を決めていました。
私の救急車はドクターヘリと合流し、ヘリコプターで病院まで運ばれました。
あまりの苦しさと痛みで記憶が曖昧ですが、気がつくと手術が終わり、ICUのベッドの上でした。髪の毛は刈られ、坊主頭。頭蓋骨にボルトを何本も差し込まれ、身動きが取れませんでした。
私の怪我は、頚椎骨折でした。お腹の中も臓器が裂けたり、穴が開いたりしてしまったようで、手術がされたようでした。
彼氏はその事に関して何て話してるのか。
事故の怪我の描写がとてもリアルで、かつグロではない匙加減で繊密に描かれていて、そこが読み応えがあり、とても怖いですね!
タイトルに「の呪い」とありますが、(あっても分かりやすくてシンプルでいいんですが)、「山道に捨てられた靴」とだけにしても、読み手の想像を膨らますことができていいんじゃないかなと思いました。