山の半壊したお社とおじいちゃん

ある時期、私はある山によく登っていました。
その山は麓に神社があり、多少岩場が多いものの然程標高も高くないので、女性の私でもアスレチック感覚で登れます。
とはいえ洋服は絶対に汚れてしまうので登山客はあまりおらず、静かな雰囲気が気に入っていたので神社へお参りする時に次いでとばかりによく登っていました。
その山は中腹に半壊したお社があります。
元々修行場でもあったそうで、そのお社は修行場だった頃に使われたそうです。半壊してはいるものの仏様が祀られ、奥の方はご神木と同じかそれ以上に大きな木が壁の代わりのように建物と一体になっています。
私はそこで休憩がてらよく休んでいたのですが、ただ間借りさせていただくのは忍びないので、お菓子やお酒などの供え物を毎回備えていました。

その日も山へ登り、そのお社で一休みしていた所、上の方から一人のおじいさんが降りてきました。
こんにちはと声をかけると、人の好い笑顔で頷いて私の向かい側へ腰かけました。
おじいさんは特に荷物もなく手ぶらで、私の持っている飲み物と非常食用のお菓子を渡しました。
「おや、嬉しいねえ。いつもありがたいねえ。あと3,4時間ほどで雨が降るから、早めに降りなさいね」
おじいさんはそういうと腰を上げて、また山へ登っていきました。
あれ？と思いながら私も登山を再開しましたが、その道中も頂上でもそのおじいさんに会う事はありませんでした。
山を降りてすぐ雨が降り始めました。おじいさんの助言がなければ私はきっと山で立ち往生していたことでしょう。